盟友バノンを切ったトランプは「白人労働者」をも裏切るのか?

最大支持層「オルタライト」への逆心
中岡 望 プロフィール

相次ぐ政策の失敗で、クシュナー首席顧問は、バノン首席戦略官の存在はトランプ政権にとって阻害要因となると考え始めた。クシュナー上席顧問はコーン委員長と組んで、バノン首席戦略官やプリーバス首席補佐官を外して、ホワイトハウスの主導権を掌握しようと動き始めた。

一説には、トランプ大統領はプリーバス首席補佐官への信任を失っており、彼に代わってコーン委員長を首席補佐官のポストに就けようとしているともいわれている。そうした動きに対して、プリーバス首席補佐官はバノン首席戦略官と組むことで生き残りを図っている。

ラインス・プリーバスラインス・プリーバス photo by Getty Images

バノン首席戦略官とクシュナー上席顧問はすべての政策で対立しているといわれる。当初は両者の関係は極めて良好であった。メディアは、二人の関係を「叔父と甥」と評していた。大統領選挙を勝ち抜くという共通な課題が二人を強く結びつけていた。数ヵ月前には、バノン首席戦略官はクシュナー上席顧問を「草の根のポピュリスト運動をちゃんと理解している人物である」と称賛していた。

だが、相次ぐ政策の頓挫を目の当たりにして、クシュナー上席顧問は、イデオロギー過剰のバノン首席戦略官の存在がトランプ政権の足かせとなっていると批判的な立場を取るようになってくる。二人の関係はもはや抜き差しならない状況に置かれている。関係修復のために二人の会談が設けられたが、関係は修復されることはなかった。

 

トランプ大統領はバノンを切り捨てた?

バノン首席戦略官とクシュナー上席顧問の確執がメディアで取り沙汰されるようになる。抗争はバノン首席戦略官の国家安全保障会議のポストの解任という形で表面化した。二人の対立に苛立ったトランプ大統領が抗争に最終的な判断を下したのだ。

トランプ大統領は『ニューヨーク・ポスト』紙のインタビューに答えて、「私はスティーブが好きだ(I like Steve)。しかし彼が選挙運動に加わったのは非常に遅い段階だ。その時には自分は競争相手の上院議員や知事を打ち負かしていた」と、明らかにバノンの貢献を低く評価する発言を行ったのである。

過去の例ではトランプ大統領が特定の人物に対して「好きだ(like)」という言葉を使うときは、常に相手を切り捨てる時であった。

この決定的ともいえる発言は、トランプ大統領のクシュナー上席顧問に対する信任を意味していた。イデオロギーや政策は別にしても、娘婿を信任するというのは、ある意味で当然かもしれない。彼は家族以外を信用しないともいわれている。娘のイバンカ・トランプと彼女の夫のクシュナーはホワイトハウスの権力のセンターになりつつあるといっても過言ではないだろう。

もはやメディアは、バノンがいつホワイトハウスを去るのかとい観測記事を書き始めている。

また、オルタライト派や保守派のメディアは、グローバリスト派であるクシュナー上席顧問やコーン委員長、公職のポストには就いていないがホワイトハウス内にオフィスを持つ大統領の娘イバンカなどを「ウエスト・ウィングのデモクラッツ(民主党員)」あるいは「ニューヨーク・デモクラッツ」であると批判し始めている。

クシュナー上席顧問はニューヨークで不動産事業を営む豊かな家庭に生まれ、両親は民主党支持者であった。ゴールドマン・サックスの元社長であるコーン委員長も民主党員に登録していた過去がある。クシュナー上席顧問とコーン委員長はいずれもユダヤ系であり、一部のメディアは、オルタライトが彼らを批判する背景には反ユダヤ主義があると指摘している。

変化の兆候は、ゴールドマン・サックス出身のスタッフの登用にも現れている。同社のパートナーであったスティーブン・ムニューチンを財務長官に、マネージング・ディレクターのジム・ドノバンを税制改革・金融市場規制問題担当の財務副長官に、パートナーであったディナ・パウエルを安全保障問題担当副補佐官に、顧問弁護士であったジェイ・クレイトンを証券取引委員会委員長に登用している。

また元社長のゲーリー・コーンはクシュナー首席顧問の個人的な引きで国家経済会議委員長に就任している。コーン委員長とパウエル安全保障担当副補佐官はクシュナー首席顧問のインナー・サークルのメンバーだ。

ゲーリー・コーンゲーリー・コーン photo by Getty Images

金融界はオルタライトの批判の的であり、実務的な元投資銀行家たちの登用は、バノンが主張してきた路線とは明らかに異なる。民主党、共和党を問わず歴代政権はいずれも多くの人材をゴールドマン・サックスに求めてきた。この動きは明らかに共和党主流派への回帰といえるものである。