盟友バノンを切ったトランプは「白人労働者」をも裏切るのか?

最大支持層「オルタライト」への逆心
中岡 望 プロフィール

オルタライトの旗頭、バノンの歩み

バノンはオルタライトの代表的な人物である。彼はジョージア州の労働者階級の出身だが、ハーバード大学経営大学院を卒業し、ゴールドマン・サックスで企業合併・買収の業務に就いていた。その後、自らコンサルタント会社を設立しハリウッドで仕事をする。自らテレビ番組や映画のプロデューサーとなり、レーガン大統領やペイリン共和党副大統領候補(2008年選挙)のドキュメンタリーの制作を通して、保守主義に傾斜していく。

そこで出会ったのがオルタライトを代表する人物の一人であるアンドリュー・ブライトバートである。バノンは『ブライトバート・ニュース』設立の際に資金援助を行っている。

ブライトバートは、オバマ政権と共和党主流派に対する反対運動であるティー・パーティ運動を支持し、オルタライトの指導者として頭角を現した。彼はウエブサイトを使ってリベラルな組織や個人に攻撃を加え、影響力を強めていき、オルタライトを社会的に認知させたる役割を果たした。

ブライトバート急逝後に、『ブライトバート・ニュース』の経営を引き継いだのがバノンである。バノンは経営手腕を発揮し、『ブライトバート・ニュース』をビジネスとしても成功させ、オルタライトの中で確固たる地位を確立した。

アンドリュー・ブライトバートアンドリュー・ブライトバート photo by Getty Images

またバノンは早い段階からトランプ支持を明らかにしていた。明確なイデオロギーを持たないトランプ候補に、確固たるイデオロギー的基盤を与えたのはバノンであった。しかし、バノンが選挙参謀に就任したのは遅く、2016年8月中旬で、すでにトランプは共和党の正式な大統領候補に指名されていた。

このときトランプは、民主党のヒラリー・クリントン候補にリードされ、起死回生の策が必要とされていた。徹底的にクリントン候補を誹謗中傷し、挑発するするオルタライトを代表する論者バノンは、その役割に最適であった。

 

イデオロギーを巡る争い

政権発足当初、バノンのホワイトハウス内での力は絶大であった。トランプ政権の最初の人事はランス・プリーバス首席補佐官とバノン首席戦略官の任命であった。筆者の知る限り、首席戦略官というポストはかつて存在しなかった。それほどトランプ大統領はバノンを重視し、彼のために特別なポストを準備したのである。

バノンの勢いは留まることを知らず、十分にトランプ大統領に説明することなく自ら国家安全保障会議の主要ポストに就いた。大統領顧問や補佐官が国家安全保障会議の常任メンバーになるのは異例であった。こうした人事は、バノン首席戦略官が間違いなくホワイトハウス内の政策策定の中心にいることを示唆していた。

だが、こうしたバノンの動きにクシュナー上席顧問は懐疑の眼差しを向け始める。クシュナーはトランプ大統領の娘婿で大統領の信任を高めつつあった。ただ抗争を個人的な関係が原因とみるのは間違いである。基本的なイデオロギーと政策の対立が背後にある。バノン首席戦略官とクシュナー上席顧問の対立は、ポピュリスト運動を優先すべきか、非イデオロギー的でプラグマティックな政策を取るかを巡る争いでもある。

たしかにトランプ大統領はオルタライト派のイデオロギーの支援を得ながら選挙を戦った。しかしバノンはイデオローグとして有能であったかもしれないが、政策の実現を図るという意味では十分に能力を発揮できなかった。選挙運動中は過激な発言が求められ、それが効果を発揮したが、政権発足後、求められるのは政策の着実な実現である。