「働き方改革」に騙されるな! 残業は「合理的」だからなくならない

問題の本質的な解決のためにすべきこと
常見 陽平 プロフィール

残業は“合理的に”発生する

ここで「働き方改革」の中でも、中心的なテーマになっている「長時間労働」について考えてみよう。その象徴とも言える「残業」について考察する。

なぜ、残業はなくならないのか?

それは、「合理的」だからである。好き嫌い、良い悪いは別として、日本の雇用システム、労働市場の関係から副産物として生み出されてしまうのが残業である。

新卒一括採用で組織に取り込まれ、メンバーシップ型の雇用のもと、業務が次々に変わる。いや、個々人の業務が必ずしも明確ではない。転勤もあれば、昇進・昇格もある。この日本型の雇用システムは「空白の石版」のようなものである。そして、「人に仕事をつける」モデルである。海外のような「仕事に人をつける」というモデルとは大きく違う。

このモデルはどちらが良いというわけではない。一長一短ある。

 

「仕事に人をつける」モデルは、変化に柔軟に対応できるとも言えるし、事業の撤退などがあった場合も、人事異動が可能である。「人に仕事をつける」というシステム自体が、残業を誘発してしまっている。担当業務の範囲が際限なく広がる可能性があるからだ。

このシステム自体が仕事の絶対量の増加を促している可能性がある。仕事の進捗管理も、マルチになる。複数の仕事を担当するがゆえに、メインの仕事がうまく進んでいても、他の仕事の関係で、トラブルが発生した場合には残業を余儀なくされてしまう。

好況期には残業で対応し、不況期には残業と賞与を抑制し乗り切る国と、その分の人員を削減することで乗り切る国の、モデルの違いということも理解しておきたい。

仕事の絶対量が多い上、突発的な業務が発生することも日本の大きな特徴だ。データを確認してみよう。

厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』の中で紹介されている「平成27年度過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」の調査結果を確認しよう。これは2015年(平成27年)12月から2016年(平成28年)1月にかけて実施された、企業と労働者に対するアンケート調査だ。

では、残業が発生する理由を企業側、労働者側の双方で見ていこう。まずは、企業側について確認する。

出所:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』
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企業側の「所定外労働が必要となる理由」においては、「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」がもっとも多く44.5%となっている。

次に「業務量が多いため」が43.3%。さらに「仕事の繁閑の差が大きいため」の39.6%、「人員が不足しているため」の30.6%と続いている。

企業側の回答であるにもかかわらず、個々人の能力・資質に起因する回答が少ないのも特徴である。

「スケジュール管理スキルが低いため」が6.3%、「マネジメントスキルが低いため」4.9%、「労働生産性が低いため」4.4%と、上位の選択肢と比較すると、明らかに低い値を示している。長時間労働は、労働者に責任があるわけではなく、企業の側に起因するものだということが浮き彫りとなる。

次に労働者側の調査結果を見てみよう。

出所:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』
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業界を問わず全体のデータを追ってみると「人員が足りないため(仕事量が多いため)」が41.3%と最も多い。

次に「予定外の仕事が突発的に発生するため」が32.2%。さらに「業務の繁閑が激しいため」30.6%、「仕事の締め切りや納期が短いため」17.1%と続く。それ以外の選択肢はすべて10%を切っている。

もちろん、この調査には限界もある。企業や従業員の回答をもとにしたものであり、業務分析を行ったものではない。だから、回答と実態が乖離している可能性はある。もっとも、企業と従業員の声を拾い上げた貴重なものではある。

なお、よくメディアでは「会議が長い」「上司や同僚が働いているので帰りづらい」ということが残業の要因として取り上げられるが、それぞれ選択肢として設けられているのにもかかわらず、回答数は少なかった。

このように、人に仕事をつける雇用システム、仕事の絶対量が多い上、突発的に業務が発生することが、残業を生む大きな原因といえる。