なぜ菊池涼介ほどの名手が、アメリカの天然芝に苦戦したのか

敗因にこそ、ドラマがある
二宮 清純 プロフィール

これに飛びついたのが菊池である。横っ飛びでボールを止め、二塁ベースカバーの坂本勇人(巨人)に、そのままグラブトスして二封。ピンチを未然に防いでみせた。

人工芝の東京ドームから天然芝のドジャースタジアムへ――。決勝ラウンドに進むにあたり、環境面の変化は、最も危惧されたことだった。

しかし、菊池に限ってそれは杞憂だと思われていた。本拠地のマツダスタジアムは総天然芝だからである。

2年前、菊池にマツダスタジアムの天然芝について訊ねたことがある。

「確かに他の球場に比べると、守備は難しいですね。雨が降ってなくてもツルンと滑りそうになることがあります。それに芝にも寝ているところと立っているところがあるんです。だからボテボテの普通のゴロでもバウンドするたびに左右に揺れる。どこで跳ねるか、絶えず疑いをもってやっていかないと、大変なことになりますよ」

後半部分に注目して欲しい。どこで跳ねるか、絶えず疑いをもってやっていないと、大変なことになる――。本拠地ですら、これだけの注意力をもって試合に臨んでいるのだ。初めてプレーするドジャースタジアムに対する「疑い」は、その比ではなかったように思われる。

それでもミスは起きた。試合後、菊池は言葉少なに語った。

「こっち(ドジャースタジアム)の方が硬かった」

 

渾身のプレイ後またもやミス

菊池のミスについて、最も的確にその要因を指摘したのがドジャースで3シーズン、プレーした評論家の石井一久である。

〈メジャーの球場は、土質が日本の球場と異なる。一般的に粗く、極端に言えば砂利のようになっている。打球が小石に当たると速度が上がったり、イレギュラーに跳ねたりする。菊池は天然芝には慣れているが、日本の球場だと、天然芝から土の部分に変わっても打球のスピード感の違いはそんなにない。しかし、メジャーでは土の部分でスピードが上がる打球を、マウンドで何度も見てきた。さらに、この日は雨で天然芝の部分もスリップして球足は速かった〉(スポーツニッポン3月23日付)

不慣れこそがミスの要因だった。あまりにも強烈過ぎるアウェーの洗礼だった。

痛恨のミスを犯した菊池がバットで意地を示したのは六回だ。一死無走者の場面で打席に立った菊池はネイト・ジョーンズ(ホワイトソックス)のシュートを右中間スタンドに叩き込んだ。雨を含んだ打球は失速するのが相場だが、菊池の執念が打球を後押ししたように感じられた。

日本のピッチャーは七回から千賀滉大(福岡ソフトバンク)に代わった。いきなり三者三振。非の打ち所のないピッチングだった。

しかし八回、やや球が高めに浮いたところを狙われた。一死一塁の場面で一番イアン・キンズラー(タイガース)に左中間に運ばれた。一死二、三塁。続く二番ジョーンズに対する初球はヒザ元へのツーシーム。引っかけた打球はサード松田宣浩(福岡ソフトバンク)の正面へ。千賀にすれば狙いどおりのピッチングだ。

松田も菊池に負けず劣らずの名手である。サードでゴールデングラブ賞に5度輝いている。スタートを切った三塁走者の姿が目に入ったのだろうか。グラブからポロリとボールがこぼれ、これが決勝点に結びついた。

WBCが現行のシステムで行われる限り、準決勝から舞台は米国に移る。これまで決勝トーナメントは第1回がパドレスの本拠地ペトコパーク、第2回がドジャースタジアム、第3回がジャイアンツの本拠地AT&Tパーク、そして第4回は再びドジャースタジアムで行われた。もちろん全て天然芝だ。

球場対策を早めに、そしてこまめに練ることこそが世界一奪還への近道と言えよう。

(つづく)

読書人の雑誌「本」2017年5月号より

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