脱北した元北朝鮮外交官が警告「日本も対岸の火事ではいられない」

実名・独占インタビュー
週刊現代 プロフィール

金正恩はカネが欲しい

私が日本人に知っておいてほしいのは、今後、北朝鮮のミサイルの性能が上がっていくにつれて、日本の危険度が増すということです。

すなわち、いまは北朝鮮の近海に落下しているようなミサイルが、今後は日本列島のすぐ手前に着弾したり、もしくは日本列島を越えて着弾するようになるということです。

さすがに日本列島を標的にして発射実験を行うことはないでしょう。しかしミサイルというのは、どこに落下するか予測が立たないものです。

その意味では、ある日突然、北朝鮮のミサイルが、日本の都市部などを直撃するかもしれない。日本はしっかりと、その備えをしておくべきです。

 

ただ金正恩自身は、日本との関係修復を切望しています。なぜなら、日米韓3ヵ国の連携を断ち切りたいからです。

現状を見ると、アメリカ、日本、韓国の中で、最も北朝鮮との関係を修復しやすいのは日本なのです。

金正恩という指導者は、おそらく日本人が想像する以上に、経済発展に並々ならぬ意欲を抱いています。だから4月13日には、80棟の高層マンションなどが並ぶ黎明通りの竣工セレモニーを華々しく挙行したのです。

こうした点は、父親の故・金正日総書記と、まったく違います。そのため金正恩としては、一日も早く日本との国交正常化を果たして、日本から多額の経済援助を得たいのです。

私は、金正恩は南北赤化統一(北朝鮮による半島統一)を考えていないと見ています。金正恩が望むのは、自分の政権を維持することだけで、そのためには経済発展が必須なのです。

金正恩の心情を察すると、4月6日にアメリカ軍がシリアの空軍基地を初めて空爆した時、次は自国を空爆されるかもしれないという不安よりは、むしろホッとしたことでしょう。再びアメリカの視線が中東へ向かってくれると思ったに違いないからです。

そのため、オーストラリアへ向かっていた空母カールビンソンが急遽、北朝鮮に向かい始めたことは、意外だったでしょう。いずれにしても、北朝鮮は何とかして、アメリカとの2国間交渉に持ち込みたいのです。

だが、アメリカがなかなか振り向いてくれない中で、北朝鮮は世界各国に「橋頭堡」を築こうとしています。その先兵役を担っているのが、われわれ外交官です。

例えば、東南アジア地域では、2月13日の金正男暗殺事件で話題になったマレーシアの北朝鮮大使館が、橋頭堡になっています。私は'14年12月まで、ベトナムの北朝鮮大使館に勤めていたので、事情をよく知っています。

'11年12月に死去した金正日総書記は、「中国に対する依存度を減らして行くように」との遺訓を残しました。それを受けて金正恩委員長は、東南アジア外交を重視するよう外務省に命じていました。

一例を示すと、以前は東南アジアの物品を輸入する際、必ず大連港を経由して北朝鮮に運んでいました。それがいまでは、ベトナムに一度集めてから、貨物船で直接、北朝鮮に運んでいます。そのためハノイの北朝鮮大使館には、陸海運送代表部を置いています。

処刑に怯える外交官たち

北朝鮮の外交官は、金正恩委員長を偶像崇拝する洗脳教育を、徹底的に受けさせられます。そのため私も、自分が韓国に亡命するまでは、金委員長は偉大な存在なのだと、純粋に信じていました。

いまからちょうど5年前に、金正恩体制が本格始動した際、「外務省指針書」が下達されました。そこには、「即時接手、即時執行、即時報告」というスローガンが書かれていました。要はモタモタせず、直ちに仕事を処理しろということです。

特に、金正恩委員長から指示が来た場合には、その日のうちに執行して報告しなければなりません。