世界中の投資家が、日本円を「調達通貨」として選ぶのはナゼ?

そうか、だから「有事の円高」になるのか
高野 やすのり

1%で5000億円

具体的には投資時にドル売り円買いを行う一方で、為替先物で同額のドル買い円売りの先物予約を行う。先ほどの例で言えば1億円の円売り(100ドルのドル買い)予約をする。その結果、投資時には為替市場で同額のドルと円の売り買い逆方向で発生することから、市場への影響は無くなる。

こうして1億円分の株を買うと同時に1億円の円売りポジションを作れば、株高になった時に円安になっても、円安での目減りを為替で相殺できる。

それでも、これだけでは日本株安と円高の関係は出てこない。実はこの為替ヘッジ、株を持っている間細かく調整をする。たとえば株価が上昇して、1億円の株の時価が1億1千万円になった時、当初ヘッジで持った為替ポジションは1億円分だけなので、1千万円分足りなくなってしまう。そこで追加の1千万円の円売り(=ドル買い)を行う。日本株が上がると、円安になる(ドル買い)理由だ。

一方、株が下落する局面ではこの反対の動きとなる。つまり1億円の株が下落して時価9000万円になってしまえば、当初作った1億円分の円売りを9000万円分にするために1000万円を買い戻す(=ドル売り)。この動きこそ日本株が下落した場合の円高の理由だ。ここでも株安時の円買いは円を買っているのではなく、買い戻しているに過ぎない。

東証上場株式の時価総額約580兆円の3割、約170兆円の外国人持ち株のすべてにこういったメカニズムが働いているわけではないが、たとえばその3割にあたる50兆円に対して、そういったメカニズムを通じて為替市場で資金が動けば、1%株価が上下するだけで5000億円もの売買が行われることになる。

さらにそうした行動が起こることを知っている多くの短期投資家が、その動きを先回りして為替の売り買いを行えばその影響は想像以上に大きなものになる。

ここまでご紹介したように、リスク回避=株安時の円買いは、基本的に空売りをしていた円の買い戻しであって、円を安全通貨と評価しての円買いではない。したがって、日本の財政問題や、国債発行残高がいくらになった、などという問題と直接の関係はないのだ。

有事なら円はどうなるか

さて、今一番関心の高いであろう話題を。もし北朝鮮で軍事的な衝突が起きた場合の市場の反応、特に為替市場の反応を考えてみよう。

まず、前提条件として長期間戦闘状態が続くことを想定するのは現実的ではないと考える。したがって市場への影響も決定的なものになることを考えるよりは、一時的な影響を考えるべきだ。日本の間近で起こる軍事的リスクであることと、日本が攻撃目標になり得ることを考えれば、株式市場の反応は売り、ということに異論はないだろう。

 

そのときの為替市場の反応だが、ここまで紹介したように円買い、すなわち円高ドル安だ。どれぐらいの規模の戦闘になるかにもよるが、規模によってはドル円が100円割れを試すような事態も考えられる。

ただし、事態が早期に収束すると考えると、円買いは長くは続かず、情勢が落ち着くとともに円安方向に修正され、大きな被害が無ければ、リスク要因が減ったことでむしろ当初よりも円安になる可能性もある。

事前にこうした可能性を想定していれば、慌てることもないし、むしろリスクイベントで利益を得ることもできるはずだ。

一般の投資家の中には、それでも北朝鮮有事の円高は納得いかないかもしれない。その時は、誰がその円売りをするのかを考えてほしい。

漠然としたイメージで円売りと思えても、それを実行する投資家がいなければそれば実現しない。過度なリスクを背負ってまで新規で円売りをする投資家がそれほどいない一方、紹介したような事情で円買いをする投資家は多く存在する。

仮に日本や日本周辺の地政学的リスクが原因で大きな円売りが起きるとすれば、それは我々日本人が日本で生きていくことをあきらめ、国内の資産の大部分をドルやその他の外貨に交換する時だろう。はたしてそんな日が来る可能性はあるのだろうか。

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