この思いっきり熱い純愛小説が「自分史上最大」の労作になろうとは

最新刊『幸福のパズル』によせて
折原 みと プロフィール

主人公と歩んだ「長い長い心の旅」

小説を書く時の最大の楽しみは、物語の主人公になって別の人生を生きられることだ。普段から取材や役作りは欠かせないが、今回はことさらに気合いが入った。幸い、舞台の葉山は車で15分程の生活圏内だ。ヒロイン、みちるの気持ちに成り切って、しょっちゅう葉山の海や町を散歩した。

この小説の取材がキッカケで葉山に多くの友人ができ、物語の中にも登場する海辺の小屋に飲みに行くようになった。夏には毎日のように海で泳ぎ、カヌーで名島にも行った。取材、役作りと称して遊んでただけ…と言われても仕方ないが、私は大真面目に作品に取り組んでいたのだ。いや、本当に!!(汗)

しかし、この成り切り戦術には落とし穴があった。物語の中盤、みちるは大きな試練に打ちのめされ、絶望して小説が書けなくなってしまう。あれ? ちょっと待てよ。マズイ!!

みちるの気持ちに同化しすぎて、私まで筆が止まってしまった~~!!

暗い絶望のトンネルの中をさ迷うことになったみちるは、縁あって長野のりんご園に身を寄せ、少しずつ前を向いて歩き始める。このりんご園も実在する場所だ。

たまたまネットで見つけた安曇野のりんご園に取材をお願いすると、奥さまが昔から私の本を読んで下さっていたことがわかり、すっかり家族ぐるみのお付き合いになった。傷ついたみちるをあたたかく受け入れてくれた安曇野のファミリーは、そのままこのりんご園の御一家がモデルだ。

 

安曇野にも何度足を運んだことだろう? あまりの居心地の良さに、もう葉山に帰らず、この北アルプスの見える美しい町で一生暮らしていてもいいんじゃないか? と思ってしまったくらいだ。そこから抜け出して話を前に進めるのには、たっぷり1年以上かかった。恐ろしい。主人公に成り切るにも程がある!!

試練は何度も訪れた。壁は何度も立ちはだかった。結局、この小説を書き上げるのに、3年もかかってしまった。自分でも信じられない。いつの間にか、小説を書いているというより、みちるとして、この物語の中で生きているような気がしていた。この小説は私にとっても、長い長い心の旅だったのだ。

今年で小説家デビュー30年になるが、文章量、費やした時間、労力、気力、全てにおいて、この作品は自分史上最大だ。ぜひ、読んでいただけたら嬉しいです!

読書人の雑誌「本」2017年5月号より