「46人殺傷事件」その法改正は誤りだと、声を上げてもいいですか?

ある精神科医の警鐘
田中 圭太郎 プロフィール

妄想とは、精神病理学的には非合理で社会的・文化的に奇異な考えを持ち、かつ、その考えの間違いを指摘されても訂正不能な思考のことを指します。

例えば、前半では「障害者470名を抹殺できます」と数字をあげ、後半では「2つの園で260名を抹殺する」と数字が変わっています。意味不明な数字をもっともらしく挙げている。本人自身も何を言っているのかわかっていないのかもしれません。あるいは数に奇異な意味付けをしていたのかもしれない。

さらに、「世界経済の活性化と第三次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれない」といった殺害の理由や、「衆議院議長の力添えをいただきたい」「逮捕後の監禁は最長2年まで」「金銭的支援5億円を確約してほしい」など、手紙のかなりの部分で語られているのは「妄想」にもとづくものです。

この手紙はひとえに本人の妄想を語っているだけなのです。

野田正彰氏

ところが植松被告を診断した2人の医師や病院の精神科医たちは、この手紙を「妄想」と読まなかった。2月19日の緊急措置入院の際、植松被告は「躁病」と診断されました。

3日後に2人の精神保健指定医が正式鑑定を行いましたが、1人目の診断は「大麻精神病と非社会性パーソナリティ障害」。2人目は「妄想性障害と薬物性精神病性障害」。2人目の医師の診察は「妄想性障害」が主であるとしているので、これは妥当な診断でしょう。しかし北里大学東病院は、植松被告の精神状態を大麻のせいにして、ほとんど治療を行わなかったとみられます。

 

読み違えたのは医師だけではありません。相模原事件を受けて国が立ち上げた「事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書は、「今回の事件は、障害者への一方的かつ身勝手な偏見や差別意識が背景となって、引き起こされたものと考えられる」としています。つまり、植松被告による障害者への差別が事件につながった、とみています。

植松被告の手紙の重要な部分を「障害者差別」と読むことによって、精神医療の問題点を分析する視点を失ってしまったのです。多くのマスコミも、「差別をなくすにはどうすべきか」という論調に流れていきました。

植松被告には確かに障害者への差別意識があったでしょうし、残念ながらこの社会には障害者への差別はあります。しかし、19人の方々が亡くなったことを「差別意識」のせいにしてしまって、精神科医たちの誤診、治療能力の欠如が忘れられている――私はそう感じています。

「大麻精神病」と鑑定したデタラメな指定医

本来マスコミが注目すべきだったのは、病院が治療をしない原因となった「大麻精神病」という鑑定結果です。

多くの日本の精神科医はこの報道を知って、「大麻精神病なんて病気があるのか」と思ったはずです。実は、そんなものはないのです。大麻の使用によってハイの状態になったり気分変動することはありますが、それによって妄想性の精神障害になることはまずありません。「非社会性パーソナリティ障害」というのも、言葉を付け足しただけにすぎません。

さらに驚いたのは、「大麻精神病」と鑑定したのが、不正な申請によって精神保健指定医になった医師だったとわかったことです。