「46人殺傷事件」その法改正は誤りだと、声を上げてもいいですか?

ある精神科医の警鐘
田中 圭太郎 プロフィール

池田小事件から何も学んでいない

<植松被告が北里大学東病院に緊急措置入院したのは、事件の5か月前にあたる2月のことだった。14日から15日にかけて千代田区の衆議院議長公邸に行き、「私は障害者総勢470名を抹殺することができます」という一文から始まる手紙を大島理森議長に渡そうとした植松被告。

その前後から、彼は自身が働いていたやまゆり園の同僚に「障害者は生きていても意味がない」といい、面談した警察官にも障害者を「日本国の指示があれば大量抹殺できる」と繰り返し言い続けた。このため警察は、他人を傷つけるおそれがあるとして植松被告を保護。相模原市に通報し、19日に緊急措置入院となった。その日行われた尿検査で、植松被告の尿から大麻成分が検出された。

が、それから12日後の3月2日、植松被告は「他害のおそれがなくなり、大麻成分も検出されなくなった」と判断されて、入院措置が解除され、退院する。>

――仮に植松被告は昨年2月に措置入院をしていた際に、病院が退院後の「支援計画」を作っていたとして、事件が防げたでしょうか。

彼は入院した後に「(議長公邸に向かった)あの時は大麻吸引をしていたから、おかしかった」と病院に説明し、退院が許されたという経緯があります。事実、その直後に友人に「病院に、大麻が原因だったとウソをついたら退院できた」と話した、と報道されています。

こんな精神科医の臨床能力では、退院後の支援計画など立てられるはずがありません。自治体と医療機関が退院後の支援計画を作るとなると、必要書類などを作成する仕事が増えるだけです。

実は、国がこのような「問題をすりかえる法律」をつくったのは、今回が初めてではありません。2001年に大阪教育大学附属池田小学校で児童8人が殺害され、児童と教員15人が負傷した事件の後にも、精神医療をさらに悪くする法律を作っています。

それが2005年に施行された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下、医療観察法)です。これは、罪を犯した精神障害者を特別の治療施設に隔離して、再び罪を犯すことがないように長期に監禁する法律です。

 

当時の小泉純一郎首相が「精神的に問題のある人が事件を起こした場合、逮捕されても、また社会に戻ってひどい事件を起こす」という発言が追い風になって成立しました。

確かに池田小事件を起こした元死刑囚は、事件の2年前に傷害事件を起こし、その後不起訴処分になりました。が、不起訴処分になったのは精神障害が理由ではなく、被害者の傷害の程度がたいしたものではなかったからです。つまり、医療観察法を作ったからといって、第二の池田小事件を防ぐことができるわけではないのです。

今回も同じことで、自治体と病院が措置入院患者を長期に監視する法律を作ったところで、再発防止にはつながりません。ひとえに措置入院した患者の退院が遅れるだけです。この法改正はしてはいけないのです。

問題は、「妄想」にある

意味のない法改正が行われようとしている原因の一つに、植松被告が事件前に衆議院議長に渡そうとした手紙を、精神科医や、社会が読み違えたことが挙げられます。

<植松被告が衆議院議長に渡そうとした手紙は、前述のとおり「私は障害者総勢470名を抹殺することができます」から始まる。

「保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳、日本国と世界の為と思い、居てもたっても居られ」ず、障害者を殺害することによって「世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれない」と続けている。さらに「障害者は不幸を作ることしかできません」と述べ、後半は「作戦内容」として、今回の犯行を予告している。>

――読み違えたとは、どのような意味ですか。

この手紙を読んだときに、この事件は「妄想」を持った人間の犯行だと読まなければならなかった。そして、それに適した処置を施すべきだったのです。