近い将来、人工知能も「学校」に通うことになるだろう

汎用人工知能の可能性と課題
金井 良太 プロフィール

金井 しかし、汎用人工知能をつくるというのは非常に難しい課題だと思います。そのような課題について、前もってロードマップを作って準備しておくというのは可能なのでしょうか。おそらく、議論していても、みながそれぞれ別の意見をもっているのではないでしょうか?

マレック まさに、その通りです。完全に意見が合わないというわけではなくて、人によってはこれだけで十分だと考えていたり、他の人はもっとこういう機能も必要だと言ってきたりといった状況です。

私は、自分の考えを押し付けたくないので、ロードマップを使って、その意見の違いをクリアにするために使っています。

例えば、ある人がこの3つの機能があれば汎用人工知能だと言っていたとして、それを実際に作って見たときにグラジュアルラーニングができていなかったら、結果的に不十分であったとわかるわけです。意見の違いは研究によって決着をつければ良いと考えています。

ティープラーニングの単なる延長ではない

金井 これまでグラジュアルラーニングを強調してきていますが、これは「汎用人工知能チャレンジ」でもメインテーマとなっています。今回のチャレンジはどのようなコンセプトで始まったのでしょうか。

マレック 「汎用人工知能チャレンジ」は2月に始めたのですが、目的は一般の人たちを巻き込んで、我々が汎用人工知能の開発に重要だと考えている課題を、皆で解きたいという考えから始めました。

その課題の1つがグラジュアルラーニングです。我々はどうやってグラジュアルラーニングができているのかを評価したら良いのか、あるエージェントが課題を解決するときにそのアルゴリズムがグラジュアルラーニングを使っているのかをどう判定したら良いのかという問題に取り組んでいました。

そしてついに適した課題を作ることができました。特にグラジュアルラーニングの部分に集中し、環境からの入力のノイズにどう対処して認識できるようにするかなどの別の問題の要素を削りました。

この課題では最初はシンプルなことを学習から始めるのですが、徐々に複雑なことを過去に得た知識を元に学習していって、グラジュアルラーニングを必要とする課題です。

そのために、この課題では文字列のシンボルを入出力に使っています。そういう意味では、環境からのノイズはないのですが、確率的な要素は入っています。タスク1を解いた後のタスク2では、タスク1で学習したことを使って課題を解く必要があるようにデザインしています。

だから、新しいタスクに遭遇するためにゼロから学習し始めるのではなく、過去に解いた課題の経験を活かして、効率的に問題が解けるような問題の設計になっています。

だから、まったくタスクを経験していないでいきなりタスク14に放り込まれても、答えを見つけ出すまでに甚大な時間を費やさなければならないでしょう。過去の経験なしに、いきなり複雑な問題を解こうとしても、仮説の空間が大きすぎて探索しようがないのです。

しかし、過去の経験から適切なバイアスを学んでいれば、それなりの時間で解けるようになるでしょう。

金井 しかし、これは非常に難しそうな課題ですが、人工知能の研究者に今回のチャレンジを解ける人がいるのでしょうか?

私自身、試しに課題をやってみましたが、最初の方は簡単ですが、少し課題が進むとかなり難しくなるという印象がありました。

それでも、全体としてちょうど良いレベルの難易度設定のようにも見えます。今回の課題の難しさについて、どのように考えていますか?

マレック 今回のチャレンジは解ける人がいると思います。いまの人工知能の研究ではディープラーニングに注目しがちですが、それとは違う発想が必要になると思います。現代のディープラーニングはグラジュアルラーニングや転移学習には向いていません。だから、違う方向から攻めていく必要があります。

今回のチャレンジを開いてよかったのは、GoodAIのチームをディープラーニングで物体認識をしたりするのとは違う方向へと向かわせることができたことです。また、グラジュアルラーニングを評価するための課題ができたことが良かったです。

最初は画像などでピクセルレベルでのグラジュアルラーニングの課題なども考えていましたが、これは非常に直感的ではなく不便でした。今回のように文字列というシンボルのシステムに移行したことで、もっと直感的な理解が可能となりました。

私たち自身も今回のチャレンジの課題を、グラジュアルラーニングの開発のために役立てています。そして、このチャレンジの発表をとおして、新しい研究の仲間を見つけていきたいです。

金井 確かに、私が今回のチャレンジを日本で紹介したときにも、もっと流行りのディープラーニングで解くような典型的なビッグデータの課題を期待していた人もいたようで、今回の課題が示す新しい方向性に発想の転換が求められていると感じている人がけっこういました。

ティープラーニングの単なる延長ではない人工知能開発というのは非常に重要だと思います。