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現代ロシア文学の傑作が教える、新人類誕生の恐るべき心理

佐藤優が説く『氷』の読み方
佐藤 優 プロフィール

彼は探検隊を離脱し、墜落現場に舞い戻った。そして隕石を見つけた。それは巨大な氷の塊だった。沼地にめり込み、腐敗した水に覆われ、人間たちの目から隠されていたのだ。若者は沼に入り、足を滑らせて転び、氷に胸を強く打った。そして彼の心臓が語りだした。彼はすべてを理解した。氷の塊を割って取り、リュックサックに入れ、人間たちのもとへ歩きだした。氷は重く、足取りは重かった。氷は解けだしていた。最寄りの村にたどり着いたときにはすでに、両手のひらに収まるくらいの小さな塊しか残っていなかった。

彼は天幕の中で眠っている娘を目にした。その髪は亜麻色で、青い目は半ば閉じていた。彼は地面から棒を拾い上げ、そこに紐で氷塊を括りつけ、あらん限りの力を込めて氷のハンマーを娘の胸に打ち下ろした。娘は叫び、意識を失った。彼は彼女のそばに横たわり、寝入った。

彼が目覚めたとき、彼女は隣に座って彼のことを兄弟のように見つめていた。二人は抱き合った。そして彼らの心臓は互いに語り合いはじめた。そして彼らはすべてを悟った。そして自分に似た者を求めて歩きだした……〉

この氷のハンマーで心臓を思いっきり叩くことによって、通常の人間と選ばれた人間を区別することができる。

〈「人類をふるいに掛けよ。金の砂を探し出すのだ。我々の数は二万三千。それ以上でもそれ以下でもない。我々は金髪碧眼だ。

二万三千全員が見出され、その全員が心臓の言語を知るやいなや、我々は輪になって立ち、我々の心臓は同時に二十三の心臓の言葉を発する。そして輪の中心に諸世界を創造せし原初の光が現れる。そして過ちは正されるだろう。

地球の世界は消滅し、光に溶ける。我々の地上の体も地球の世界とともに溶ける。そして我々は再び原初の光となる。そして永遠へと還るのだ」/ブロが言い終えるやいなや、私の心臓に動きが生じた。そして私は感じた―彼が私に地上の言語で伝えたことすべてを〉

人種主義、エリート思想など、ヨーロッパ人、ロシア人の封印している危険な思想が吹き出している。現下のヨーロッパ、ロシアでは、極右勢力が台頭しているが、その背景にはこの小説で描かれている人種主義がある。

週刊現代』2017年4月29日号より