「てるみくらぶ破たん」が示した"薄利多売ビジネス"の限界

感度の高い企業は既にシフトチェンジ
加谷 珪一 プロフィール

日本全体が「てるみくらぶ」化している?

現段階において、日本がスタグフレーションに突入すると断言することはできないが、人手不足を原因とする企業の悲鳴はあちこちから聞こえ始めている。

これに加えて、トランプ経済の進展で円安が進みやすくなっており、輸入物価が上昇するリスクも増大している。過度に不安視する必要はないものの、日本経済の構造が根本的に変わるリスクについて、筆者はある程度、織り込んでおくべきだと考えている。

景気低迷と物価上昇が併存する新しい経済フェーズでは、大量安値販売を軸とした、いわゆる薄利多売ビジネスは成立しにくい。先進各国と比較して日本企業の利益率は低く、販売数量に依存している部分も多い。程度の差こそあれ、多くが「てるみくらぶ」状態になっている可能性が高いのだ。

Photo by GettyImages

規模を縮小し、一定の利益率を確保する縮小均衡モデルに転換するか、付加価値の高い製品やサービスにシフトしなければ、新しい時代を生き延びることは難しいだろう。

感度の高い企業はすでに動き始めている。格安航空券ビジネスの元祖であり、若年層の利用が圧倒的に多かったエイチ・アイ・エスは、10年前から付加価値の高い高齢者層に主要顧客をシフト。

最近では、旅行代理店という業態そのものに見切りを付け始めており、「変なホテル」に代表されるホテル事業など、新業態に向けて急速に舵を切っている。

 

ドーナツ市場の縮小に悩むミスタードーナツは、今後、店内で調理する店舗を減らし、近隣店舗で商品を融通するシステムに切り替える方針を明らかにした。店舗コストを削減するとともに、人手不足にも対応するのが狙いだ。

同社は、顧客が2割から3割減少しても利益を出せる体質にするとしており、市場に対する見立ては厳しい。同社の市場見通しは厳し過ぎるようにも思えるが、数年後にはこうした状況が当たり前になっている可能性もある。

日本では長くデフレが続いており、インフレの恐ろしさを直感的に理解できる人が少なくなっている。しかも景気低迷と物価上昇の併存は、すべての日本人にとって未経験ゾーンだ。あまり想像したくないが、デフレの頃は良かったと懐かしむようになるのも時間の問題かもしれない。