「てるみくらぶ破たん」が示した"薄利多売ビジネス"の限界

感度の高い企業は既にシフトチェンジ
加谷 珪一 プロフィール

不景気とインフレが同時に進むリスク

これは「てるみくらぶ」というひとつの会社に関するものだが、今後の日本経済全体が直面する課題でもある。需要が伸びない中、供給に制限がかかってしまうと、調達コストが急激に上昇する。

その結果、薄利多売を前提としていたビジネスモデルが一気に崩壊してしまう。てるみくらぶの場合には余剰座席の減少が原因だったが、日本経済において供給制限が発生する主な原因は、「人手不足」である。

日本が深刻な人手不足に陥っていることは多くの人が認識しているが、それが経済全体に何をもたらすのかについて皮膚感覚として理解できている人はまだ少ない。

 

これまで日本の総人口はほぼ横ばいで推移しており、高齢化だけが進んでいた。一方で若年層人口は2割も減っており、これが外食産業などの現場で極端な人手不足を引き起こしていた。

だが今後は、いよいよ総人口の減少が始まり、これに加えて30代から40代という中核的な労働力人口が減少する。人手不足の影響は外食産業や建設業にとどまらず、一般企業のホワイトカラー層にも及んでくるだろう。つまり、あらゆる業界で「すき家」のワンオペ問題や電通の過労自殺問題が発生する可能性があるのだ。

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近い将来、企業は労働力を確保するためだけに高いコストを支払う必要に迫られるだろう。しかも総人口が減少するので経済全体の需要も同時に減っていく。最終的にはどこかで均衡状態になるが、しばらくの間は需要の減退と供給制限によるコスト増が同時並行で進むことになる。

一般的にインフレは需要過多によって発生することが多い(ディマンドプル・インフレ)。景気は拡大しているので、物価が上がっても所得が増えるので生活水準は向上する。

だが日本経済が直面しつつあるのは景気拡大によるインフレではなく、人手不足による物価の上昇である(コスト・プッシュ・インフレ)。

しかも需要の低迷と物価上昇が併存するので、不景気とインフレが同時に進むいわゆるスタグフレーションに陥る可能性もある。

企業は人件費の高騰から生産を抑制するようになり、これによって所得が減少し、ひいては需要の低下を引き起こすというまさに負のスパイラルだ。