このごろニュースを見ていると、誰もかれもが二言目には「民主主義」を持ち出す。ここまで乱発されると、安物の大量生産品を勧められているようで、有り難みも失せがちだが、そもそも国民はバカではないのだから、民主主義を手放そうなどとは夢にも思ってはいない。
それより、民主主義をじわじわと壊している張本人は、実は政治家やジャーナリストたちではないか? 「ちょっと、それはないだろう!」と思われることが、最近、ドイツで立て続けに起こっている。
国会議員ノベルト・ラマート氏は、議員のあいだでも国民のあいだでも、信望の厚い政治家だ。2005年からずっと連邦議会の議長を務めている。その彼が、突然、議会における長老議長の選出基準を変えようと言い出した。国民からしてみれば、寝耳に水だ。
そもそも国民にとっては、長老議長などという言葉自体が不慣れ。聞くところによればその役目は、選挙後初の国会を仕切ることだそうだ。綱領に即した宣言をし、慣例に則り、無事に議長を選出したところでお役御免。それなりに名誉ある役目で、国会議員の最年長者が引き受けることになっている。
ところが、ラマート議長は突然、次期国会から、それを最年長者ではなく、一番長く国会議員をやってきた人が務めるよう、規則を変えようと言い始めた。国民の希望で出てきた話でないことは確かだ。
ラマート氏はその理由として、最初の議会をリードするのは経験豊かな人の方が良いから、とかなんとか言っているが、「なぜ、今、突然?」という疑問が残る。
真の理由は、実は、非常にわかりやすい。規則を変えなければ、次期国会の初日、この役を務めるのがAfD(ドイツのための選択肢)の議員になりそうだからだ。
AfDは右派の新党で、前回の総選挙の時は出来たばかりだったため、国会にまだ議席はないが、その後めきめきと支持者を増やした。ここ数年、州レベルの議会では、すでに軒並み議席を獲得している。
AfDについては、このコラムでしばしば書いているが、元はと言えば、EUの単一通貨であるユーロの存在に異議を唱えた経済学者たちが始めた党だった。そのあと、次第にメルケル氏の難民政策批判にチャンネルが切り替わり、国民の支持を得た。今では、他のあらゆる政党がその台頭を非常に警戒している。
既成の権力者たちは、新興政党の勃興を好まない。できれば若芽のうちに潰してしまおうと思うらしく、政治家とメディアが一致団結して、AfD攻撃に躍起になっている。ポピュリストだ、反民主主義者だ、国家主義者だ、差別主義者だ、ナチだ……云々。
ところがAfDの勢いは止まず、9月の総選挙ではかなりの国会議員を生むと見られている。そのうえ、当選確実の議員に1935年生まれが二人もいる。紛れもなく、彼らが最年長議員となるはずだ。
しかし、いくらそれが気に入らないからといって、規則を変えるというのはあざとくないか? しかも、それをリードしているのが、これまでずっと民主主義の化身のような顔をしてきたラマート氏だ。その彼が、民主主義を“守る”ためには敵に対する故意のデッドボールも許されると思っているなら、ちょっとショックだ。
これでは、民主主義の主人公が誰なのかもわからなくなってしまう。