タモさんもビックリ!?「猫の目」で歩くと街はこんなに隙間だらけ

猫ストーカー、護国寺に現る!
浅生 ハルミン プロフィール

知られざるランドマーク

路地をじょうろを持った男の人が歩いてきた。

「すみません、ここのお宅は芸術家ですか?」と、悪い癖ですぐに人に訊いてしまう。

「さあねえ、よくわかんないんだけど、今は誰も住んでないよ」と男の人は苦笑いをした。

「えっ、誰か住んでそうな雰囲気ですけどね」

庭木が荒れ放題ではないのでそう思った。

「おばあさんがひとりでいたんだけど、急にいなくなったんだよ。10年以上前の話ね。ご主人はその前からもう見かけなかったね」

「じゃあ、この彫刻はどなたが作ったものですか?」

「息子さんが子どものときに作ったんじゃないかな。ヨーロッパに留学したみたいだけど」

「写真、撮ってもいいでしょうか」

「いいよいいよ。みんなばんばん撮っていくよ」

photo by Harumin Asao

お話ありがとうございます……お辞儀をした途端、男の人の表情がすっと消えて家の中に入って行ったらどうしよう、と思ったけれど、すたすたと路地の奥に歩いていった。

作者は息子さんなのか。そう知った途端怖さが減って、動物たちが幼稚園の遊具に見えてきた。確かに、小学校の図画工作の教科書に載っていた粘土細工はどれも妖怪のような不気味な仕上がりだった。

子どもは面白いものを作ろうとして丹精込めると怖い仕上がりになってしまうのだ。愉快愉快。こののびのびした彫刻が誰にも阻止されず、この路地にこのままあり続けてくれますように、と勝手に願った。

 

表通りに戻ってまた歩きはじめる。枝分かれして斜めに入る小径があった。隙間ならそっちでしょう。ゆるやかな勾配がだらだら長い登り坂になっている。誘われるように入っていくと驚いた。小径の片側の路地という路地が階段になっている。

路地だけでなく、家と家の隙間には必ず階段がついている。しかもいろいろなタイプの階段があった。3方向から合流して1本になる階段。爪先しか乗らない幅の薄い階段。石畳の階段。2本が民家のうしろで繋がっている階段、家々の隙間をねじれながら上に延びて行く階段。

普請の真っ最中の階段もあるということは、それほどに生活必需品なのだろう。勾配型の地形に密集して建っている家と家の隙間を階段が這うように延びている。この家々の密集具合は、岩石の中に密集した水晶の原石のよう。