北朝鮮のミサイル発射失敗の裏に、アメリカのサイバー攻撃あり?

「水面下の戦争」その実態
山田 敏弘 プロフィール

発射する前に爆破する

一体どんなサイバー攻撃なのか。そのコンセプトは「Left-of-launch(発射寸前)」作戦と呼ばれているもので、ごく単純化して言えば、ミサイルの発射前と発射直後にミサイルを破壊するというものだ。ミサイル発射時を中心として、左から右に時間軸の線を書くと、左側(Left)が発射前になるのでこう呼ばれている。

具体的には、ミサイルをコントロールするコンピューターシステム、センサー、そのほかのミサイル発射に必要となるネットワークに対してサイバー攻撃を仕掛ける。あるいは発射装置のコントロールをマルウェア(遠隔操作などを可能にする不正プログラム)などで妨害したり無効化したり、発射台を破壊する工作もある。

ミサイルのプログラムを不正に書き換えたのか、ミサイルが発射前に爆破されるケースもあるというし、さらにはミサイルシステムの指示系統や制御を発射前に電磁パルス(EMP)によって機能不全に陥らせる方法もある、と伝わっている。

またサイバー攻撃によって不正操作が可能となり、ミサイルが海に落ちたり、軌道を大きく外れたり、空中分解してしまったケースもあった。もちろん北のミサイル発射実験の失敗例の中には、サイバー攻撃と関係のないケースもあるようだが、間違いなく米軍はサイバー攻撃によってミサイル破壊工作を成功させているのである。

こうした手法は、著者が米国で『ゼロデイ』の取材を進める中で耳にしたことがあった。2014年のことだ。その時、さらにもうひとつ米軍関係者からこんな話も聞いている。2010年ごろ、オバマ政権が北朝鮮の核開発施設に対してサイバー攻撃を仕掛けようとしてうまくいかなかった、という話だ。

 

米軍は2009年にイランの核燃料施設に「スタックスネット」と呼ばれるマルウェア(不正なコンピュータープログラム)を感染させて破壊することに成功している。この時と似たようなマルウェアを北朝鮮にも送り込んで核開発を阻止しようと試みたのだ。北朝鮮がその少し前の2009年5月25日に、2度目となる核実験を実施して米国を挑発していたことも背景にはあった。

しかし、米軍はこれを断念せざるを得なかった。北朝鮮のあまりの「閉鎖性」とデジタル化の遅れが原因だ。かの国にはインターネットも普及していないし、国外ネットワークとの繋がりも極めて少ない。

では、なぜ最近になってミサイル妨害作戦が実施できるようになったのか。どうやって”侵入”できたのだろうか。

ここにアメリカのサイバー攻撃の重要な役割を担うNSA(国国家安全保障局)の極秘工作が生きていると見られている。「サプライチェーン妨害」と呼ばれるテクニックだ。

この工作は、北朝鮮がミサイルのシステムやネットワークなどで使う機器を、北朝鮮に輸入される前に把握して、機器自体にマルウェアを埋め込む手法だ。当然、機器を受け取った側はそのことに気がつかない。NSAはこの作戦で敵国へのサイバー攻撃やハッキングを成功させている(その事実はリークされた機密文書で暴露されている)。