なぜカードは魔力を得たか? 人気占い師が明かす「タロットの秘密」

文化としての占いを考察
鏡 リュウジ プロフィール

物心つくかつかないかの子供にとってそんな言葉のいかに魅力的であったことか。ああ、これで僕は友だちも、大人たちも知らない魔力への鍵を手にしてしまったのだ、という高揚感と、そしてどこか知ってはいけないことを知ってしまったような後ろめたさの混じった複雑な興奮を味わったのである。

むろん、タロットの入門書に書かれていたこのような惹句は事実ではない。タロットは魔法の道具ではなく付録のおもちゃであり、未来を毎回、正確に予言できる力などあるはずもない。いかに子供とはいえすぐそのことには気づく。

しかし、タロットの神秘的にも見える寓意やそこからつながる世界は豊穣であり、単に「占いごっこ」のひとつとして軽んじるにはあまりにもったいない領域であることも見えてきたのである。

カルチャーとしてのタロット

時代的にも欧米では1970年代からタロットへの本格的な研究がスタートした。そうした研究を僕は毎月、毎日の「星占い」を書く傍らで密かにフォローし続けてきた。

今回、現代新書から『タロットの秘密』を上梓させていただくにあたり、この中に詰め込んだのは「星占い」を書く一方で積み重ねてきたタロットに関する私が学んだことのエッセンスである。

 

皆さんはご存知だろうか。

タロットがルネサンス貴族の最先端の舶来遊戯として誕生し、18世紀末まで占いには使われていなかったことを。アイルランドのノーベル賞詩人W・B・イエイツがタロットに熱中し、アイルランド演劇復興の牙城となった劇場設立にあたり、本気でタロット占いをしたことを。そしてあの心理学者ユングや、神話学者のキャンベルがタロットの象徴と人間心理を結びつけようとしたことを。

そう、タロットはひとつのカルチャーであり、また多くの人々の思想や夢の受け皿にもなってきたのである。

この小さな本はそんな広大なタロットの文化の世界を知っていただくためのゲートでありポータルである。ぜひ手に取っていただき、「占い」はもちろん、「文化」としてのタロットの奥行に触れていただければ幸いである。

タロットの秘密

読書人の雑誌「本」2017年5月号より