書店を取り巻く環境が激変する中で、しなやかに芽吹いた小さな希望

リレー読書日記
生島 淳 プロフィール

難しい文章に触れた後は、肩の凝らない本が読みたくなる。ラジオを聴いているみたいな調子で読める本が……。

そこで目に留まったのが『笑って、泣いて、考えて。』。昨年7月に亡くなった永六輔が先生役で、“聴講生”がさだまさし。贅沢なゼミである。

「へえー」とびっくりするようなエピソードが多く、たとえば、4月からテレビ朝日系列でスタートした連続ドラマの脚本を手掛ける倉本聰と永六輔は、順天堂病院の産室が一緒だという(いまだに倉本聰が現役ってのがすごい)。

その他にも刺殺された浅沼稲次郎が声優を務めたことがあるだとか、中村八大の部屋に連れ込まれていきなり作詞を依頼され、そこで生まれたのが「黒い花びら」だったとか、NHKの食堂で一緒に食事したタモリから陰口を言われたなど、戦後の芸能史の秘史がわんさか出てくる。

このふたりの顔合わせだからユーモアもたっぷりだが(永六輔がタクシーに乗車中、接触事故に巻き込まれた話は必読)、憲法、戦争に触れるなどリベラルな雰囲気も濃厚である。

中村勘三郎をして「ずいぶん喋るんだね」と言わしめたさだまさしが、聞き役に徹している。もったいない気もするのだが、この距離感が大事だったのだろう。永六輔の肉声が失われてしまった今、きっと読み返したくなる本だ(対談のまとめが抜群にうまい)。

さて、足かけ4年にわたって続けてきたこのリレー読書日記も、私の担当は今回でお開き。新刊を追う生活になっていたので、今日からは旧作を読み返します(まずは、漱石とバルザック)。

一度、書いたけれど読書の「終活」は大事ですよ。それでは、みなさんごきげんよう。

週刊現代』2017年4月22日号より