「男の冒険心」をくすぐる基本の10冊〜作家・柴田哲孝さんが推薦

遠くに行きたい衝動を読書でかなえる
柴田 哲孝

チャンドラーの『さらば愛しき女よ』は高校時代に読み、淡々と物語が進んでいくハードボイルドの世界に魅了されました。

緻密な状況描写に対して、余計な説明がない。わかるやつだけついてこい、というタッチ。そこがまたよかった。当時は授業中も本を読んでいた。

あるとき保健体育の先生に「コラ!」と取り上げられ、「先生、僕は将来小説家になる。だからいま一杯本を読まないといけないんです」と言ったら、「お前のことは覚えておくから」と返してくれた。後に「本当に小説家になったんだな」と手紙をもらいました。

最後は松本清張の『日本の黒い霧』。戦後日本で起きた怪事件の数々の真相に迫っており、昭和24年、国鉄の初代総裁が常磐線で轢死体となって発見された「下山事件」についても書かれています。

その事件に僕の祖父が関わっていたというのを知り、15年かけ、百人以上の話を聞き『下山事件 最後の証言』というノンフィクションを書きました。当初は事件の知識はなく、人に話を聞きに行っては清張さんの本を読み返す。書き込みと赤線でボロボロになった。かなうことなら、清張さんに僕の本を読んでもらいたかったですね。

(取材・文/朝山実)

▼最近読んだ一冊

 
「桜田門外の変など幕末の血なまぐさい事件を扱った短編集。歴史上脇役だった人物の視点に立って描かれているのが面白い。有名な人物では桂小五郎は逃げ足が速かったという逸話がある。時代をスパンと切り取った名作」
 

柴田哲孝さんのベスト10冊

第1位『狼王ロボ シートン動物記
アーネスト・T・シートン著 藤原英司訳 集英社文庫 430円
賞金を懸けられた狼と人間との戦いを描いた「狼王ロボ」をはじめ、「灰色グマの伝記」など。動物記録文学の名作

第2位『完訳 ファーブル昆虫記』全10巻
ファーブル著 山田吉彦・林達夫訳 岩波文庫 第1巻900円ほか
「大きな糞玉を転がす一匹にもう一匹が加わり二匹で運ぶ様子をファーブルが観察。子供のころ何度も読み返した」

第3位『十五少年漂流記
ジュール・ヴェルヌ著 横塚光雄訳 集英社文庫 876円
ニュージーランドの寄宿学校の生徒たちが乗った船は事故で漂流し、孤島に漂着。生き抜こうとする少年たちの物語

第4位『老人と海
ヘミングウェイ著 福田恆存訳 新潮文庫 430円
メキシコ湾の沖で一本釣りで大型魚を釣り、生計を立てている老漁師とカジキの死闘

第5位『オーパ!
開高健著 高橋昇写真 集英社文庫 960円
魚たちのユートピア、アマゾンにのみ棲息する「幻の大魚」を追い求めたノンフィクション

第6位『汚れた英雄』全4巻
大藪春彦著 徳間文庫 古書のみ入手可
「高校時代に悪友に薦められて読んだ。乾いたハードボイルドの気配と暴力性に惹かれた」

第7位『滅びの笛
西村寿行著 徳間文庫 古書のみ入手可
「熊笹の一斉開花で溝鼠が大量発生し、人間を襲う。めちゃくちゃ面白い動物パニック小説」

第8位『さらば愛しき女よ
レイモンド・チャンドラー著 清水俊二訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 840円
私立探偵マーロウは自身の不注意から、眼前で依頼人を殺されて窮地に陥るが……

第9位『シャドウ・ダイバー 深海に眠る Uボートの謎を解き明かした男たち』上・下
ロバート・カーソン著 上野元美訳 ハヤカワ文庫 各700円
「米国沖の海域に沈んでいたドイツ潜水艦の謎を、ダイバーたちが命がけで突き止める実話」

第10位『日本の黒い霧』上巻
松本清張著 文春文庫 680円
「清張さんが画期的なのはGHQが『下山事件』に関与していたことを初めて示唆したこと」

週刊現代』2017年4月22日号より