ビートたけしと緒形拳を巡る、奇妙な「因縁」

主演ドラマ『破獄』今夜放送!
近藤 正高 プロフィール

後年、緒形拳とビートたけしは、池端俊策の脚本による『忠臣蔵』(1990年、TBS系)で共演を果たす。主演のたけしの役が、かつて緒形が『戦メリ』への出演を断念する理由となった大石内蔵助であったというのも、偶然にしてはできすぎである。

拙著『ビートたけしと北野武』で指摘したとおり、たけしが実録ドラマで演じる役は二つの立場に挟まれて葛藤する人物がほとんどだ。大石内蔵助もその例に漏れない。

大石といえば赤穂藩の元家老だ。その赤穂藩では、主君である浅野内匠頭が江戸城で吉良上野介に斬りかかって切腹させられ、幕府の命で浅野家は断絶、藩は城ともども没収される。最終的に大石は、ほかの赤穂浪士とともに吉良をその屋敷に襲い、主君の敵討ちを遂げた。いわゆる吉良邸討ち入りである。

だが、たけし演じる大石は、本来なら討ち入りをするような人物ではなかった。はっきり言って優柔不断で、政治的野心も皆無であり、絵さえ描ければ満足だった。浅野内匠頭が切腹した直後も、泣きながら「殿を追って自分も死んでしまいたい」とうかつな発言をしてしまう。

大石は赤穂城を明け渡したあと、浅野家再興を幕府に懇願し続ける。だが、その道が閉ざされ、江戸で一部の浪士らが吉良への敵討ちを画策するなかで、しだいにそちらに傾いていく。

これに対し、敵討ちに最後まで頑なに反対するのが、大石と同じく浅野家の家老の緒形拳演じる大野九郎兵衛だった。大野は、米沢藩が浅野家の家臣を受け入れるとの話を大石に持ちかける。だが、米沢藩主の上杉家は吉良の親戚であり、当然ながら大石はなかなか信じようとしない。それでも大野は、このさい家名よりも実をとるべきだと、大石を説得する。

他方、大石に討ち入りをけしかける者もいた。それが儒者の細井広沢で、西田敏行が演じている。将軍綱吉の側近・柳沢吉保お抱えの儒者である細井には、大石に仇討をけしかけることで、民衆の怒りの矛先を幕府ではなく、吉良に向けさせることができるとの思惑があった。

大野の言うとおり米沢藩の世話になるか、それとも細井の言うとおり討ち入りを決行するか。実をとるか名をとるかで悩み抜いた末に、大石はわずか47人しか残らなかった浪士を率いて吉良邸に討ち入りを決行する。

たけし扮する大石をそれぞれ違う立場から説得するのが、緒形拳と西田敏行という日本を代表する名優で、いずれも舞台出身にして大河ドラマの常連というのが面白い。

たけしと緒形・西田では、演じる役へのアプローチのしかたもまるで違う。緒形や西田が、役になりきることに徹しているのに対し、たけしはむしろ役づくりに懐疑的で、素のままで演じることをよしとしている。池端版『忠臣蔵』では、そんな性格の異なる俳優どうしがぶつかり合うさまがじつに見ものであった。

この『忠臣蔵』は、米沢藩に移るという話が水泡に帰し、忠義を示した大石らに対し裏切り者呼ばわりされながらも生き延び、年老いた大野九郎兵衛の視点から語られている。NHK版『破獄』でも、緒形は脱獄犯・佐久間の老年期までを演じたが、若いころから老け役を好んで演じたというだけあって、さすがにハマっている。

 

これに対して、俳優・ビートたけしは、実年齢を上回る役を演じても、下手に役づくりすることなく、あくまで素であった。それにもかかわらず、いや、だからこそ妙なリアリティを醸し出し、とりわけそれは実在の事件当事者を演じるときに効果をもたらした。

今回の『破獄』では、先述のとおりたけしは看守を演じる。脱獄を繰り返す囚人に対し、その行動を抑える立場にあるという意味では、かつての『忠臣蔵』における大石内蔵助よりも大野九郎兵衛に近い。

犯人役で役者として頭角を現したたけしが、逆の立場になったとき、はたしてどんな演技を見せるのか。緒形拳との因縁とあわせ、今回の『破獄』がどんな作品となるのか、いまから楽しみだ。