佐藤優が教える、池田大作『人間革命』の読み方

なぜ、初版と二版で中身が違うのか
佐藤 優 プロフィール

昭和史を描いた小説でもある

『人間革命』は、昭和史を描いた小説としても楽しく読むことができる。例えば、治安維持法と不敬罪で逮捕、勾留されていた戸田城聖氏(創価学会二代会長)が東京都中野の豊多摩刑務所から釈放され、帰宅する途上の電車の中でのエピソードだ。

米爆撃機から投下された焼夷弾の殻から、シャベルや包丁を作ったことを自慢している男たちがいる。

〈戸田は、微笑んだ。敵の焼夷弾の弾片の鉄屑から、シャベルを作り、包丁を作る庶民のたくましい知恵に、敬意を表したくなった。

彼は、立ち上がって、彼らの方へ歩み寄ったが、この時、電車はスピードを落とし、目黒駅に入っていた。彼は、降り際に、この熱心な討論者たちに声をかけた。

「じゃあ、皆さん、ご苦労さん。シャベルと包丁、うんと作ってくださいよ」

一団の人びとは、一瞬、怪訝な面持ちで顔を見合わせた。仲間の誰かの知り合いかと思ったのである。見ず知らずの他人だとわかると、みんな愉快そうに、どっと笑い声をたてた。

職人たちを乗せた電車は、発車した。彼らは、暗いプラットホームに浴衣の男の姿を見ると、一斉に窓から体を乗り出し、「さようなら、おやすみぃー」と叫びながら、盛んに手を振った。彼らは、自分たちの実用新案に、見知らぬ男からの加勢を得て、にわかに自信を深めたのであろう〉

このエピソードは、電車の中での、些細な出来事のように見える。しかし、そうではない。重要な宗教的意味がある。

 

宗教は、彼岸的、すなわちあの世に救いを求めるということではない。現実に人間が生きているこの世界が、宗教が活躍する場なのである。戦時下のどのように苦しい状況においても、宗教人は、自身の信仰を基準に生活し、戦わなくてはならない。電車の中で話していた男たちも、戦争で家族や友人を亡くしているはずだ。それでも、焼夷弾の殻からシャベルや包丁を作って懸命に生きようとしている。

この庶民の生命力を強めることが宗教人としての務めなのだと戸田氏は考えたのであろう。こういう発想が宗教人の特徴だ。

週刊現代』2017年4月15日号より