なぜ今?「親北派」を大統領に選んでしまう韓国人のメンタリティ

元駐韓大使が激動の半島情勢を読む
現代ビジネス編集部

駐韓大使が帰任したことの意味

――中国側が韓国へのTHAAD配備を容認する代わりに、文在寅新政権に対して、北朝鮮に接近するようプレッシャーをかける…というのは甘すぎる見方でしょうか?

近藤 甘すぎますね。まず、なぜ習近平政権がTHAAD配備に強硬に反対するのかを理解しなければなりません。習近平主席は、THAADが配備されると人民解放軍を掌握できなくなると思っているのです。

習近平主席は昨年から、人民解放軍の改革を行っています。これは建国以来とも言える大改革で、230万人いる兵士を2年間で200万人に減らすとか、北部に配置された陸軍を中心とした軍隊から、南部と東部に展開する海軍を中心の軍隊に変えるとか、各軍管区のトップが強大な権限を持っていたのを、中央軍事委員会主席、つまり習近平がすべての権限を持てるように変える、とか。

その大改革を遂行している最中に、喉元、つまり韓国にTHAADが配備されるとなれば、そのレーダーが半径2000㎞に及び、北部戦区、中部戦区、北海艦隊、東海艦隊などを網羅してしまうため、軍事改革は変更を余儀なくされます。かつ、それを抑えられなかったことで、習近平の人民解放軍に対する求心力も低下してしまう。習

近平の権力の源泉は、軍のパワーと国有企業の富です。そのため、軍の求心力の低下はどうしても避けなければならない。

つまり、THAAD問題で習近平が折れることはないのです。

アメリカが中国を活用するように、日本も中国を活用すべきだ――チャイナ・ウォッチャーの提言がここに詰まっている(amazonはこちらから)

武藤 私自身は、文在寅氏は当選しても、THAADを撤廃しないと思っています。「自分が大統領になる前に配備されてしまったのだから、仕方ない」と。北朝鮮との外交に専念するためにも、そういう態度をとるのではないかと思いますね。

もしTHAADを撤廃するとなれば、アメリカは韓国に「だったら、米国はもう知らない、勝手にしろ」と言ってくるでしょう。さすがに、在韓米軍の撤退にまでつながることになれば、国民の不安は最高潮に達するでしょうから、それよりは、THAADを採るのではないでしょうか。

いずれにせよ、朝鮮半島を舞台に、5月以降大きな地政学的変化が起こることは間違いない。日本もその危機意識を持たなければなりません。

近藤 朝鮮半島の緊張が高まる中で、自民党内では「ミサイル発射の兆候があったときには、敵基地を叩くことも検討すべきだ」という議論が起こっていますが、まず議論すべきは、北朝鮮がソウルを攻撃してきたとき、あるいはその兆候があった時に、在韓邦人及び日本人旅行客の救出・退避をどう進めるのか、ということです。これがほとんど議論されていません。

昨年末に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことを受けて、安倍政権は対抗措置として長嶺安政駐韓大使を日本に帰還させました。4月4日にようやく韓国に帰任しましたが、韓国に日本の最高責任者がいない状態が3ヵ月も続いていた。危機管理について考えた時、トップが不在、というのは大変な問題です。

武藤 私も駐韓大使時代(2010年~2012年)には、日本大使館の一番重要な仕事の一つは、在韓の日本国民の生命と安全を守るということだと肝に銘じていました。北朝鮮との関係で危機が起こったときに、最高責任者が不在というのは問題です。

また、大使の重要な役割として、緊急の場合には、任国の防衛大臣や外務大臣と直接面会したり、電話して協力することです。それができるのは大使だけです。情報収集だけなら公使以下でも相当カバーできるでしょうが。

思い出されるのは94年に起こった北朝鮮危機(北朝鮮の核開発を巡り、アメリカが北朝鮮への攻撃を検討するほど緊張が高まった)です。あの危機のとき、後藤利雄大使(当時)の夫人が、個人的な用事で日本に一時帰国しました。そのことが韓国の日本人社会に伝わって、「大使の夫人が帰国したということは、本当に危ないんじゃないか」と邦人社会はパニックになりました。

危機下においては、在留邦人は大使館の動きを注意深く見ています。また、韓国人も日本人が退避を始めると、日本に対し反発することも考えられます。緊急時の行動は、日本の外交、邦人保護にとって極めて機微な問題になるわけですし、大使の判断は極めて重要になります。