なぜ今?「親北派」を大統領に選んでしまう韓国人のメンタリティ

元駐韓大使が激動の半島情勢を読む
現代ビジネス編集部

「バランサー外交」を気取るが

近藤 そうです。そしてそのカネは、核兵器やミサイルの開発に注ぎ込まれるでしょう。国際社会に対する脅威が、今以上に増すのは間違いありません。

ここで指摘しておきたいのが、韓国国内にも、「北朝鮮が核を持って何が悪いんだ」という声が少なからずあることです。「いずれ南北統一を果たしたときに、韓国は核保有国となり、日本や周辺国に対抗できるではないか」という理論です。

武藤 この韓国の国民の「北朝鮮へのシンパシー」というものが、なかなか日本人には理解できないところがある。でも、やはり元を辿れば同胞だという意識は根強くあって、それが文在寅氏を支持するもうひとつの理由となっているわけです。

金正恩は本気で「赤化統一」(北朝鮮主導による南北統一)ができると考えているのではないか。私たちの常識では想像できないことですが、文政権が誕生すれば、それが現実となる可能性がないとは言い切れません。

 

近藤 平壌の金正恩委員長は、「チャンス到来!」と思うでしょうね。同時に、THAAD配備を巡って、米韓関係に大きなほころびが生じることも懸念されます。

文氏がその見直しを示唆しているため、アメリカは文大統領誕生を見越して、THAADの配備を大統領選挙の5月前後に前倒しすることを決めました。一度配備されれば、撤去は難しくなるでしょうが、文政権が強硬に撤去を主張すれば、米韓関係の悪化は避けられません。

そもそもアメリカは、文在寅新政権が誕生したら、対北朝鮮戦略において米韓で情報共有を行うこと自体、機密情報が韓国側から北朝鮮に流れるのではないかと危惧しています。文氏は2007年11月、国連の北朝鮮に対する人権非難決議の草案を北朝鮮に流した「前科」がスキャンダルになっているからです。

近藤大介氏

武藤 アメリカは文大統領誕生を見越して様々な準備をしていると思います。ご指摘のTHAAD配備もその一環です。しかし、去る3月17日、ティラーソン国務長官が訪韓した際、文在寅氏と面会して「過度の親北朝鮮路線や、米韓関係を揺るがすようなことは得策ではない」と釘をさすことはしませんでした。せっかくの機会に残念です。

近藤 安煕正(アン・ヒジョン、「共に民主党」の二番手候補。トランプ政権との対話の重要性を訴えていた)氏とは会っているんですが、彼が次期大統領になる確率はゼロに等しい(笑)。米韓が双方に責任をなすりつけ合っていますが、ティラーソン国務長官はその日、尹炳世外相主催の晩餐会もドタキャンしています。

武藤 米韓関係については、朴槿恵大統領の時からコミュニケションが十分でない面がありました。

2015年10月に朴大統領が訪米した際に、オバマ大統領(当時)が、「米国も中国との関係を良くしたいので、韓国が中国と仲良くしたいのは分かる。しかし、中国が南シナ海などで国際法に違反するようなことをやったときには、一緒になって反対の声をあげてほしい」と丁寧に釘を刺しました。

しかし、朴大統領はオバマ大統領発言の前段部分だけ取り上げて、「アメリカは我が国の中国に対する姿勢を完全に理解してくれた」といったのです。外交をやっている人の常識ですが、米国は事前に米中首脳会談の雰囲気について詳しく説明しています。韓国はこうした外交の呼吸を理解していないのです。

究極の「鈍感力」の持ち主だった朴前大統領

近藤 私はそのメンツを潰された時、オバマ大統領は韓国へのTHAAD配備を決断したと見ています。もうこれ以上、中韓接近を看過できないということです。

――しかし、韓国国内のTHAAD配備が決まったことで、中韓関係は1992年の国交正常化以降、最悪レベルに悪化しています。

これまでは日本、アメリカからみた韓国について語ってきましたが、中国は韓国、特に文大統領の誕生について、どう受け止めているのでしょうか。

近藤 誤解を恐れずに言えば、中国は韓国にも北朝鮮にも、たいして興味がないんですよ。

第一はアメリカ、次いでロシアです。これは中国外交部が、優秀な人間をアメリカ担当とロシア担当に配置していくことからも明らかです。朝鮮半島との関係は、「中米関係の一部分」という扱いです。 

なぜ習近平主席がTHAAD配備に猛烈に反対しているかと言えば、喉元にアメリカの強力な兵器が配備されることで、中国の東アジア戦略を大きく見直さざるを得なくなるからです。

だから、もしもTHAAD配備が実施されれば、その日から中国全土で強烈な反韓運動が起こるでしょうね。2012年9月に、日本が尖閣諸島を国有化した時の、反日運動を思い出してもらえればいい。

THAAD配備の見直しを示唆している文氏が大統領になることは、中国にとっては好ましいことです。ただ、前任の朴槿恵大統領がアメリカと中国を同等に考える「バランサー外交」を行ってきたのに対し、文在寅新政権はアメリカと北朝鮮を同等に考える「バランサー外交」を行おうとしている。

つまり、中国をどう考えるのかということが、いま一つはっきりしないわけです。

武藤 中国は当然THAAD配備の撤回を求めてくるでしょうから、文氏はいきなり難問に直面することになりますね。アメリカをとるのか、中国をとるのか、という踏み絵を踏まされることになる。

近藤さんが指摘するように、5月に中国で大規模な「反韓運動」が起これば、韓国国民の気持ちも刺激されて、「中国の言いなりになるとは、なんと弱腰だ」という声が高まるかもしれない。

板挟みになる中、この問題を巧くマネージできなければ、さっそく求心力を失うことになりかねません。