トランプとプーチンの「蜜月」はなぜ急に失速したか

米露関係を左右するいくつかのトゲ
小泉 悠 プロフィール

「戦略的安定性」を巡って

核抑止を巡る、いわゆる「戦略的安定性」の問題も見過ごせない。

米ソは1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約によって射程500〜5500kmの地上発射型ミサイルを全廃したが、この数年、ロシアが同条約に違反して長射程の地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を開発・配備しているのではないかと疑惑を米側は提起していた。

これに対してロシア側は疑惑を否定し、米国が欧州に配備しているミサイル防衛(MD)システムがGLCMの発射装置としても転用できるとか、長距離無人機が巡航ミサイルに該当するとして逆に米側の条約違反を非難している状況である。

しかもこの問題は、戦略的安定性を巡るさらに広範な課題に影響を与えそうだ。

第一に、米国では、ロシアの条約違反に対抗して欧州での戦術核戦力やMDシステムを増強すべきであるとの議論や、米国もGLCMを対抗配備すべきであるとの議論が持ち上がっている。

今のところトランプ政権は特定の立場を明らかにしていないが、現在策定作業が行われている核抑止政策の指針「核態勢見直し(NPR)」ではロシアへの抑止力強化が打ち出される方針であるとも伝えられる。

第二に、このようなロシアの振る舞いは、戦略核軍縮にも否定的な影響を及ぼすだろうとの見方が米国の有識者たちの間で広がっている。

現在、米露は2010年に結んだ新戦略兵器削減条約(新START)に基づいて両国の戦略核兵器(射程5500km以上の弾道ミサイルや長距離爆撃機)の削減を進めているが、同条約は2021年に失効する。

したがって、そろそろ後継条約の協議を進める必要があるが、ロシアがINF全廃条約に違反している現状で米側が協議に応じるかどうかは明らかでない。ロシア側も新たな核軍縮条約では核兵器の削減だけでなくMDシステムへの制限などを要求してくると見られ、交渉は容易には進みそうもない。

 

危機の落としどころが見つからない

このように、米露間では「蜜月」への期待が急失速したばかりか、オバマ政権期以来の安全保障問題が引き続きくすぶり続ける可能性が高い。

もともと米露間には密接な政治・経済・社会的つながりが乏しく、一時的な政治的イニシアチブで関係が改善に向かっても、政治的な動機が失われると本来のすれ違いが顕在化するというパターンを繰り返してきた。筆者が、「蜜月」が短期間で終わるだろうと予測した理由がこれである。

ただし、経済危機下にあるロシアが米国との軍事的対立をいつまでも続けることもまた難しい。ロシアの経済規模は世界第13位に過ぎず、米国をはじめとして西側の経済大国と対峙し続けられる期間はもともとそう長いものではなかった。

したがって、現在の軍事的危機はどこかで落とし所を見つけなければならないが、その着地点が見えないというのが現在の状況であろう。

折しもロシアは来年に大統領選挙を控えており、プーチン大統領が2024年まで政権の座を維持することが確実視されている。

この長期政権の中でプーチン大統領のロシアが米国との共存の道を見つけるのか、経済危機に苦しみながら軍事的対立を続けるのか。今後の7年間は米露関係と世界の大きな岐路であると言えよう。