トランプとプーチンの「蜜月」はなぜ急に失速したか

米露関係を左右するいくつかのトゲ
小泉 悠 プロフィール

欧州「軍事的緊張」のリアル

また、ロシアの振る舞いは欧州諸国の安全保障政策にも大きな影響を与えつつある。

特にバルト三国、ポーランド、スウェーデン等はロシアに備えるための軍事力強化に舵を切りつつあり、徴兵制の復活や民兵組織の設置、国防費の増加等が実際に始まりつつある。

これらの国々はもとからロシアに対して強い警戒感を持ってきたが、ウクライナ危機はその警戒感に現実の裏打ちを与えた。さらにこれまではロシアに対して宥和的な姿勢を示していたドイツもトランプ政権の要求に応える形で国防費の増加へと転じている。

欧州での軍事的危機は、そもそもの発端であるウクライナ危機からもはや切り離され、独立した現象になりつつあると考えられよう。

近年、欧州においてロシアは局所的な軍事的優勢を獲得しつつあるが、これは膨大な軍事負担(2016年度の国防費は3兆9000億ルーブル [日本円で約7兆6000億円] にも及び、これは対GDP比で4.7%に達する)によってかろうじて維持できているものに過ぎず、西欧の経済大国が本格的に軍事費の増加に舵を切れば、このような優勢は比較的短期間で失われる可能性が高い。

トランプ政権のNATO加盟国に対する国防費増額要求は、米国の負担軽減というトランプ大統領の公約を反映したものと考えられるが、副次的にロシアへの圧力としても作用するだろう。

 

中東でのすれ違い

米露関係のもう一つの棘が中東問題である。

アサド政権、イラン、トルコ、ロシアがシリア情勢の主導権を握り、米国はアサド政権の打倒路線を放棄してISISの打倒でロシアと協調路線に転じること。これがロシアの期待であったが、ここでも微妙なすれ違いが見られる。

たしかにトランプ政権はアサド政権の打倒を公然とは掲げなくなったものの、ロシアの主導権下における協調路線にも舵を切っていないためである。

さらに米国はシリアに1000人規模の地上部隊を派遣し、独自のプレゼンスを発揮し始めており、シリア内戦の収拾に向けて米露の立場の食い違いが拡大していく可能性が考えられる。

加えてトランプ政権は当初からイランに対して極めて強硬な姿勢を示しており、これもイランを中東における重要同盟国と見なすロシアとは相容れない点である。

トランプ政権がシリアに対するイランの介入や弾道ミサイル開発、さらには潜在的な核開発能力に対して圧力をかけようとすれば、ロシアはイラン擁護に回らざるを得ず、結果的に米露関係の対立点となることが予想されよう。