トランプとプーチンの「蜜月」はなぜ急に失速したか

米露関係を左右するいくつかのトゲ
小泉 悠 プロフィール

なぜ「米露蜜月」は失速したか

しかし、現実には「米露蜜月」の見通しは急速にしぼんでいった。

国防長官に任命された海兵隊出身のマティス氏はその就任演説において、ロシアは「NATOを破壊しようとしている」と発言したほか、親露的とみられたティラーソン氏さえ「ロシアの台頭と拡大に危機感」を持たなければならないと述べた。

さらに親露派人脈の代表格と見られたフリン補佐官は、選挙期間中にロシア大使と不適切な接触を行った上にその事実を正しく報告しなかったとして辞任に追い込まれ、後任には対露強硬派のマクマスター氏(陸軍出身)が就任。

国家安全保障会議のロシア担当上級部長となるヒル氏(ブルッキングス研究所出身)や駐露大使のポストに就くハンツマン氏(ユタ州知事出身)も総じてロシアに対しては警戒的な姿勢で知られる。

「親露派の多いトランプ政権」というイメージは、名実ともに急速に変化しつつあるのが現状だ。

トランプ大統領自身についても、大統領選挙でロシアと「連携」したとの疑い(いわゆる「ロシア・ゲート」)でFBIが調査に乗り出すなど、ロシアは鬼門となりつつあり、容易にロシア接近を図ることは難しい情勢である。

筆者はトランプ政権の成立によって短期的には米露関係が改善しても、中長期的には米露のすれ違いが前景化するのではないかとの見通しを持っていたが、それさえ望み薄というのが米露関係の現状であろう。

 

くすぶり続けるウクライナ問題

ここで米露関係の課題を整理してみよう。

オバマ政権後期において米露関係の最大の棘であったのはウクライナ問題である。

ロシアにしてみれば「孤立主義」的なトランプ政権が旧ソ連諸国をロシアの勢力圏として承認し、干渉を控える姿勢を示してくれるのではないか、さらにはウクライナ問題を不問として経済制裁を解除してくれるのではないかというのが大きな期待であった。

ところが上記の理由から、こうした期待はもはや現実的なものとは言いがたくなっている。

筆者は本稿の執筆に先立ち、米国ワシントンD.C.で現地のロシア専門家や安全保障専門家と意見交換を行う機会を持ったが、トランプ政権は当面、ウクライナ問題で従来の姿勢を変えそうもないという見方が支配的であった。

形だけは制裁を維持し、原油掘削技術や資金供与に関する制限(これこそが対露制裁の本丸である)を緩和する可能性についても、否定的な見方が多い。

かといって対露制裁の条件となるウクライナ和平合意(ミンスク合意)の履行は、第一段階の停戦・兵力引き離しの段階で躓いており、結局はウクライナ問題やそれに伴う対露制裁はこのまま継続となる可能性が高いと考えられよう。