# 再生医療

人類から「ハゲ」に悩む人がいなくなる日 〜再生医療の最前線ルポ

実用化はもうまもなく!
山根 一眞 プロフィール

山根 接着剤が何かがわからない?

 その通り。そのひとつが、「カドヘリン」で、竹市先生はさまざまな物質がどう細胞を自己組織化するかを研究されてきたんです。

山根 あの奇妙なビルの外装は、まさに再生医療の象徴だったのかぁ。それで接着する方法は見つかった?

 バラバラの細胞をねばねばしたコラーゲンの液体の中に打ち込み、身動きできないようにして自己組織化させればいいとわかったんです。そこで、まず上皮細胞を入れ、動かないのを確かめたうえで間葉細胞を加え層構造に配置し、1〜2日置いておくと自分で接着剤を出し組織になっていくんです。

山根 それが可能なら、望む臓器が作れる?

 その仕組みを使い、私たちが臓器再生のモデルにしたのが、歯なんですよ。歯も臓器と同じように作られていますが複雑です。なぜ歯を選んだかといえば、大きな臓器では種が大きくなるのに時間がかかること、そして肝臓のような臓器だと、動物実験でも取り出せば死んでしまいます。歯であれば、失っても死なせないですみます。

山根 うちで飼っていた齧歯類のプレーリードッグはケージでひっかけて歯を失ったんですが、軟らかい餌で長生きしました。

 私は生き死にに関係する臓器再生をしたかったが、あえて生き死にに関係ないものを研究することで原理原則を知ることにしたんです。

スマホ並みの再生医療

辻さんは、同じ理由から、唾液腺や涙腺、毛髪の再生医療に絞り込んだ。

これらを対象としたのは、辻さんならではの社会的な理由も大きかった。肝臓の再生医療を必要とする患者さんとくらべると、歯の再生や毛髪の復活を望んでいる人のほうが圧倒的に多いからだ。

また、歯のインプラント治療では、自由診療で1本で約30万円、複数であれば100万円以上も支出している人がきわめて多いため、ある程度の高額医療であっても成り立つ。男性型脱毛症では1000万円もの出費を続けている人がいるのが「カツラ」の世界だという。

つまり、国民健康保険が破綻をきたさない分野から始めようと、これらの再生医療に取り組むことにしたのだ。

現在、世界で男性型脱毛症に対してかつらや増毛などの市場規模は1兆円という試算もあり、その再生治療は十分ビジネスとして成立するはずだとして、辻研究室と複数の企業がその実現に向けて着々と準備を進めているのだ。

 携帯電話も登場初期は弁当箱以上の大きさで、限られた人しか使えず、きわめて高価だったでしょう。それが今、小学生でも持っています。それと同じことが再生医療でも起こる。

そこで、高い治療費を払っていただける方に、歯や男性型脱毛症の再生医療を利用していただくことでこの技術を担う企業が力をつけ、スマホのように裾野を広げていくことを目指しているわけです。

山根 歯を失った人でも再生医療で子供のように歯が生えてくる、頭のてっぺんが淋しくなったお父さんも青年のようにふさふさになるとは驚きです。

 お年寄りは、唾液腺が機能を失って口の中に唾液が出なくなるケースが多いんです。そのため、食べものが飲み込めず、また喉に詰まらせる危険が大きい。しかし唾液腺も再生できるので、老人介護での大きな問題が解決できます。ひどいドライアイでは点眼薬を使い続けねばならないですが、涙腺も再生できます。

こういう、世界の多くの人たちが待っている再生医療を日本発のイノベーションで大きく産業化したいというのが私たちの夢なんです。

辻さんは、理研の中興の祖である大河内正敏を目指してきた。高校時代に理研の歴史を読み、大河内正敏が理研コンツェルンを立ち上げた歴史を知り、理研に憧れていたのだ。

その辻さんの目標は「産業界の役に立ち、研究資金を稼ぎ、それによって自分たちが考える好きな研究を好きなだけやれる研究者の楽園としての理研」だ。

滲出型加齢黄斑変性のiPS治療は失明の危機に瀕している患者さんにとって切実に待っていた再生医療だが、それと並行して私でもすぐに受けたい再生医療の実現が近いと知り、ちょっとわくわくした。

理研は、日本発の新しい医療、再生医療時代を、国民医療費の負担増にならず普及させていく舵取りという課題もクリアしてほしいと思う。