ロンドンテロ事件が盛り上がらなかった「納得の理由」

ISは弱体化しているのかもしれない
末近 浩太 プロフィール

よく知られているように、ロンドンは世界有数のコスモポリタンな都市である。

そのロンドンで、昨年5月のサディク・カーン市長の就任以来、そして、同年7月の英国の国民投票によるEUからの離脱決定後に特に力を入れて打ち出されてきたのが、「ロンドン・イズ・オープン(#LondonIsOpen)」キャンペーンである。

「私たちは単にお互いの違いを許すだけではありません。私たちはそれを祝福します。世界のあらゆる場所から来た多くの人びとがここで暮らし働いており、私たちの街の生活のあらゆる面に貢献しています。

私たちは、今まさに、ロンドン中、そして世界中の人びとが、「ロンドン・イズ・オープン」に耳を傾けてくれることを確かめなくてはなりません。

世界へポジティヴなメッセージを送るために、このシンプルですが力強いキャンペーンに皆さんが参加することを求めます。サディク・カーン」

(筆者撮影)

カーン市長自身がムスリムであることから、イスラーム過激派によるテロ対策の文脈において、このキャンペーンの意義はひときわ大きい。

昨年の市長選挙では対立候補がロンドン市政初めてとなるムスリム市長の誕生を阻止しようとする戦略をとったが、ロンドナーたちはそれを支持しなかった。ロンドン版トランプ現象は起こらなかった。

最近では、2017年2月26日、ロンドン市内中心部トラファルガー広場で、第89回アカデミー賞の外国語映画賞を受賞したイランのアスガー・ファルハディ監督の作品『セールスマン』の無料上映会が開催された。同監督は、ドナルド・トランプ米大統領の強硬の移民政策に対する抗議の意から、授賞式のボイコットを表明していた。

トランプ現象は、もはやロンドンにとっての反面教師となっているのである。

むろん、こうした寛容さを行き過ぎたものとして苦々しく思っている保守系のロンドナーも少なからず存在する。また、人びとの多様性が高まれば、予期しない様々なことも起こりうる。さらに言えば、寛容さがテロ対策の万能薬になるわけでもない。

しかしながら、自発的な犯行、個人的な過激化、そして、ソフトターゲットへの攻撃ーーこれを阻止することは事実上不可能である。だからこそ、「できること」を考え続ける必要がある。

世界は徐々にテロに「慣れ」てきてしまっているのかもしれない。しかし、それは、世界が「劇場型」のテロが用意した劇場の舞台で踊らされなくなってきたことを示唆するものでもある。

寛容を謳(うた)ってきたロンドンでも、ついにテロが起こってしまった。だが、その際に見られた英国人とロンドナーの冷静さ、「慎重さ」に、テロの拡散と極右の台頭が進む今日に世界において、ささやかな希望を見いだすことはできないだろうか。

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