美貌の元弁護士が「あり得ない」依頼に知略をめぐらす鮮烈ミステリー

目指すはルパン三世?
柚月 裕子

――野球賭博がテーマの一編、「心理的にあり得ない」もタイムリーです。

ええ。私の野球知識はもともと、セ・リーグとパ・リーグの違いもよくわからないくらい。ジャイアンツと巨人が別チームだと思っていたくらいなんです(笑)。

野球賭博をトリックに使ってみようとやはり調べていたら、例の巨人軍選手の野球賭博問題が再び発覚したりして。これも偶然でした。

――旬の話題、トレンドを感じさせる小道具、細部のディテールへのこだわりが、各話の密度の濃さにもつながっているようです。

仕事部屋には、裏社会の実録ものなどの本、ヤクザ映画のDVD、将棋の名言集から女性ファッション誌まで、トリックのアイデアやプロット作りの参考になりそうな資料は何でも揃えるようにしています。何でも知りたい。好奇心が旺盛なんです。

将棋や野球といった特定のジャンルに詳しすぎず、皆さんがエンタメとして楽しめることを第一に心がけているのも、作家としてはかえっていいのかもしれません。

また私は、法律はもちろん、警察やヤクザなどの組織のことなど、まったく知識がないところから始めています。だから、デビュー時からずっと、何でも勉強中。小説は虚構の世界ですから、読者の方が「本当にありそう」と思えるようなリアリティを大事にしています。

――このシリーズ、今後の展開が楽しみです。

このシリーズは、これからも書いていくことになりそうです。例えば貴山は、もっと深く書き込みたいキャラクター。彼は元役者でもあって、芸達者なんです。そばにいたらちょっと面倒な気難しさがある一方、朴訥な面もあって、書きがいがあります。

今回は少ししか出てこないのですけれど、涼子に「早く嫁いで子供を産め」なんてセクハラ発言を繰り返す刑事の丹波も、もっと書きたいですね。アニメの『ルパン三世』の銭形のような立ち位置のキャラクターになりそうな気がします。

ルパン世代の私は、あの作品の登場人物たちの「馴れ合いがない関係」がとても好きです。個々に独立していて、いざという時にはがっちりと組める潔い関係性がとてもカッコいい。この「あり得ない」シリーズの涼子、貴山、丹波も、そんな関係のキャラクターに育て上げていきたいと思っています。

(取材・文/窪木淳子)

『週刊現代』2017年4月8日号より