トランプとアメコミの世界観は、背筋が凍るほどよく似ている

もしかしてバットマン気分?
川崎 大助 プロフィール

バットマンやスパイダーマンがその作品のなかで、警察など司法関係者、あるいは社会的地位の高い人物からときに悪し様に罵られる、というシーンがある。そんな際によく使われるフレーズが「Masked Vigilante(覆面姿の自警者)」だ。

ヴィジランテとは、元来はアメリカ英語の言葉だ。日本語では「自警団員」と訳されることが多いが、そこに「団」などなくとも構わない。警官など、法律にもとづいて正規に任命された法執行員「以外の者」が治安活動をおこなえば、それがすなわちヴィジランテだ。そしてこの言葉には、悪い意味しかない。

なぜならば、ヴィジランテの行動原理とは「政府や法には頼らない」のが出発点だからだ。大抵は武装していて、そしてときには、いや往々にして「行き過ぎる」からだ。

たとえば「法では裁けぬ『悪』を断つ」なんてフレーズ、日本でも時代劇や暴力的なマンガのなかにはよくあるが、ここで最大の問題となるのは、それが悪だということを、一体だれが「決める」のか――ということだ。

司法は介入していない(か、使いものにならない)というのが前提となっているから、この場合それを決められるのは、ヴィジランテである「俺」や「私」しかない。

だから「往々にして」そこでは歪んだ正義が実現されることになる。実現のために必要な「制裁」が、凄惨な私刑、リンチとなる場合も多い。史上最も有名なマスクド・ヴィジランテは、もちろんKKKだ。

だからこの、トランプの一連の「ベイン騒動」が、アメリカの多くの人々の心胆を寒からしめたのは、あろうことか現職の大統領が「マスクド・ヴィジランテ」の気分でいるとしたら……という恐怖を感じたから、というのは決して遠くない。

 

もし本当に「そのとおり」だとしたら、この世界中に「火の手が上がる」のは、時間の問題でしかない。言うまでもなくそれは、悪夢以外のなにものでもない。

いや、アラン・ムーア原作の『ウォッチメン』(ザック・スナイダー監督で2009年に映画化)のような世界かもしれない。あるいは、『サウスパーク』のトレイ・パーカーとマット・ストーンによる『チーム★アメリカ/ワールドポリス』(2004年)のほうが近いかもしれない。

後者は『サンダーバード』を模した人形劇にて、「地球上のどこでも」出撃してはテロリストを殲滅する特殊部隊「チーム・アメリカ」の独善的な大暴れを描いたコメディだった。

あらゆる超法規的な活動をするチーム・アメリカを、「まるでいまの現実世界のように」ハリウッド・スターを始めとするリベラル文化人が批判する(アレック・ボールドウィン、ジョージ・クルーニー、ショーン・ペンなどが人形で登場する)。しかしそのことごとくが、チーム・アメリカによって虐殺される。逆にチーム・アメリカの本部は、マイケル・ムーア監督の自爆テロによって壊滅させられる……。

もしかしたら、もうすぐ現実もこのとおりになる、のかもしれない。公開当時「あまりにもひどい」と非難轟々だった「鬼畜ギャグ」の数々は、じつは鬼畜でもなんでもなく、たんに予言的な内容だった、のかもしれない。

アメコミ界の逆襲?

と、こうした現状に、少なくともアメコミ界は指をくわえて見ているわけではない、ということも、公平を期すために書いておくべきだろう。

代表的な例が、一連のマーベル・スタジオ映画にてキャプテン・アメリカを演じた俳優、クリス・エヴァンスが、ツイッターなどを用いて幾度もトランプの政策を批判していることだ。彼の役柄のファンのなかには、まず間違いなくトランプ支持者が多数いるはずだ。だからこれは、勇気ある行動と賞賛すべきだろう。

クリス・エヴァンス〔PHOTO〕gettyimages

そもそものキャプテン・アメリカ(略称キャップ)というキャラクターは、第二次大戦下の戦争ヒーローだった。初登場の1941年の時点で(当時まだアメリカは参戦前だったにもかかわらず)、誌上でいきなりヒトラーをぶん殴っていたのが彼だ。

そんなキャップが参加するスーパーヒーロー・チーム、アヴェンジャーズや諜報組織シールドの動きを中心に据えたマーベル映画世界のなかの一群は、(2016年までのところ)きわめて軍事色が強い、タカ派的な内容に傾斜しがちだったことも忘れてはならない。

さらに、映画もコミックもすべて統括するマーベル・エンターテイメントのCEO、アイザック・パールムッターはトランプの有力な支持者でもある。

イスラエル出身のパールムッターは、67年の6日間戦争に従軍した兵士であり、米軍の傷病軍人への支援に熱心だった。だから同問題へのトランプの政策に寄与したい、として2015年には100万ドルを寄付した。トランプはパールムッターを「最も偉大なビジネスマンの一人」と賞賛していて、親密な相思相愛の関係にある、と言っていい。

ゆえに、そんな状況下において、クリス・エヴァンスが率先してトランプ批判の口火を切ったことは「さすがキャップ!」と大きな話題となった。コミック・ファンの共通見解として、キャプテン・アメリカこそが「マーベル・ユニバースのモラル・コンパス(道徳的指針)」だからだ。