トランプとアメコミの世界観は、背筋が凍るほどよく似ている

もしかしてバットマン気分?
川崎 大助 プロフィール

こんな事件もあった。

2015年の秋、黒人に対する不当な警察暴力に抗議する運動「Black Lives Matter」のデモ行進が全米のいたるところでおこなわれていたのだが、そのうちのいくつかが、これを敵視する対抗勢力に襲われた。

11月23日、ミネソタ州ミネアポリスのデモにも銃撃が加えられた。これは15日に同地で黒人青年ジャマー・クラークが警官に不当に射殺されたことへのプロテストであり、平和的なデモだった。襲撃者は4人の白人至上主義者で、すぐに警察に逮捕された。そして、このときひとつの映像が話題となった。

その映像とは、襲撃に先立つ11月20日にネット上に投稿されたものだった。

移動中の車中で撮影されたとおぼしき動画のなかでは、大学生ぐらいだろうか、2人の白人青年が興奮した面持ちでカメラに向かって話しかけ続ける。まるでパーティーに繰り出す途中であるかのように、快活に、「これからミネアポリスでデモ行進している黒人を襲う」ことを宣言していた(彼らが襲撃犯と同一人物なのかどうか、警察は発表していない)。

この2人は、覆面姿だった。まるでコミックブック・ヒーローかヴィランのような「異名」をそれぞれが名乗っていた。「装弾済みだ」というオートマティック拳銃を見せびらかして、黒人を侮蔑するネット・スラングを連発し、視聴者に「Stay White!」と呼びかけていた。

そして、「We’re going to make the fire rise」とも言った。

これもまた『ダークナイト・ライジング』で有名になった「ベインのセリフ」だった。ベインは映画の冒頭で、「The fire rises(火の手が上がる)」と不敵に言い放ち、彼が引き起こすことになる、その後の大災厄を予言したのだった。

要するに、トランプが「口真似」をしたのは、こんな連中が偶像視するようなキャラクターのセリフだった、ということだ。

 

意図はなんだったのか? オルト・ライトや人種差別主義者に向けて、これまた「私も同じ志なのだよ」とシークレット・メッセージを送ったのか。はたまた逆に、「リベラル側」をこそ震撼せしめるための示威行為、だったのか。

真相は霧のなかにある。

だがしかし、以上のような傍証から、ベインの口真似は「狙ってやった」行為だと考えることが妥当だ、ということだ。つまりこれは、笑って済ませていいものではない。

現実に銃乱射事件まで…

また『ダークナイト・ライジング』について忘れてはならないのは、2012年7月20日、コロラド州オーロラの劇場で起きた銃乱射事件だ。

幼児も含む計70人もの死傷者が出たこの痛ましい事件は、『ダークナイト・ライジング』を先行オールナイト上映中の場内が狙われた。凶行をおこなったジェームズ・ホームズは、ノーラン監督の前作、つまりバットマン第二作『ダークナイト』(08年)のヴィラン、ジョーカーに心酔し、自らを彼になぞらえていた。

呪われた、と言うべきだろう。そんな「いわくつきの」映画の、「いわくつきの」ヴィランのセリフを、就任式において引用した新大統領が、トランプだったのだ。

ちなみに、『ダークナイト』にもトランプは関係していた。映画のクライマックス、ジョーカーとバットマンが直接拳を交えて戦うシーンは、当時シカゴ中心部にて建設中だった同地のトランプ・タワーにて撮影されていた。「ダークナイト」三部作とトランプとは、なぜか縁が深い。

さてところで、ここでひとつ僕は、トランプ大統領を含む、ベイン信者(?)にとってはちょっとショックな事実を指摘しておきたい。

じつに皮肉なことに、原作コミックでのベインは「彼らが思うような白人ではない」ということだ!

ベインは、ヒスパニック系という設定だった(オルト・ライトや、バノンやミラーはこの事実を知らないか、都合よく無視しているのだろう)。ベインとは、プエルトリコにも似た島を故郷とするキャラクターだ。だからカストロやゲバラみたいな「革命」をも模索するわけだ。

たまたまノーラン監督の映画版では(ハリウッドのホワイト・ウォッシュのせいで?)イギリス人のトム・ハーディが演じただけのことで、元来は「ヒスパニック最強のヴィラン」とまで呼ばれていたベインが、よりにもよって、こんなふうな形で世間の耳目を集めることになろうとは……現実とはコミック・ライターの想像よりも「奇怪なり」と言うべきだろうか。

「政府や法には頼らない」行動原理

といったわけで、トランプ大統領は、ブルース・ウェインのふりをしたベインかもしれない。じつは両者は、とてもよく似ている。まるでコインの裏表のように。なぜならば両者とも「Vigilantism(自警主義)」の落とし子だからだ。