トランプとアメコミの世界観は、背筋が凍るほどよく似ている

もしかしてバットマン気分?
川崎 大助 プロフィール

演説原稿を書いた2人の「黒幕」

その理由を述べよう。

ベインとは、ここ数年のあいだ、アメリカのオルト・ライト(オルタナティヴ右翼)系のウェブサイトを中心に根強い人気を誇る「革命的」なキャラクターだったからだ。「白人至上主義者最大のヒーロー」と呼ぶ声すら多い、そんなアイコンが彼だったのだ。

このときのトランプの演説原稿を書いたのは、首席戦略官にして大統領上級顧問のスティーヴ・バノンと、「選挙期間中のトランプの演説原稿を一手に書いていた」大統領補佐官のスティーブン・ミラーだった。

だからこの2人とトランプの三者が心をひとつにして、「ベインのフレーズ」を導入した、と考えるのが自然だ。もちろん、ベインがどのようなキャラクターかを、十二分に知った上で。

トランプはともかく、バノンとミラーの2人がそれを知らなかったわけは、絶対にない。

なぜならば、片やバノンは、オルト・ライト界を牽引するサイト〈ブライトバード・ニュース〉の前代表だった人物だからだ。

スティーヴ・バノン〔PHOTO〕gettyimages

レーニン主義者で、終末論者で、昨年11月のインタヴューでは「闇(Darkness)はいいものだ。ディック・チェイニー。サタン。ダース・ヴェイダー。それは力だ」なんて平気で言っていた、トランプ政権内でもファナティックさでは一番星と言える男だ。

片やミラーは、高校時代から「保守の星」と呼ばれた極右小僧で、デューク大学時代には「オルト・ライトの名付け親」としても有名な、最近は「ハイル・トランプ!」とナチ式の敬礼をやったことで世間のバッシングを一手に集めたリチャード・B・スペンサーとも仲よく活動していたと言われる(ミラー本人はこの情報を否定している)。

スティーブン・ミラー〔PHOTO〕gettyimages

そしてこの2人は、白人至上主義者の大物、ジャレッド・テイラーから、(司法長官のジェフ・セッションズと並んで)「立派な人種的自我」がある、として賞賛されている。

さらにミラーに至っては、ユダヤ人であるにもかかわらずその人種思想が受けて、元KKK団リーダーで反ユダヤのホロコースト否定論者巨魁、デーヴィッド・デュークから「たまらん、俺こいつ大好き。奴は本物だ」なんてツイートされる始末だ。そしてこの2人こそが、例の7ヵ国入国禁止令の草案も書いた、とされている。

ベインを崇拝する困った人びと

そんな彼らがわざわざ「引用」したベインとはいかなるキャラクターなのか、もうすこし説明しよう。

 

ベインとは、バットマンの背骨を折るほどの戦闘力をそなえた強靭な肉体に、きわめて高い知性を合わせ持った悪漢だ。さらに彼は「思想犯」でもある。

『ダークナイト・ライジング』のなかのベインは、腐敗した「支配者層」から「実力行使」でゴッサムの主導権を奪い、そして「虐げられていた」人民を蜂起させることによって、アメリカ社会のなかに「正しい秩序」を回復しようとする――。

前述のベインの演説は、ゴッサム市の刑務所の重犯罪者を解放し、「カネ持ちや権力者を襲え」と煽動する際に放たれたものだった。ここの力学、世界観に魅入られるオルト・ライトは多いと言われる。