トランプ節は「プロレス」から生まれた!シンプルかつ快感の世界

だからこんなに愛されている
川崎 大助 プロフィール

トランプ節の起源はプロレスにあった!

アメリカである一定以上の地位にいる公人が「絶対にやるわけがない」口調や態度を、ことさらに実践しようとしているのがトランプという人だ、と言っていい。

つまりあれは、ひとつのパフォーマンスの「型」として見るのが正しい。幼稚で粗野な言葉を、特徴的な口調と、身振り手振り、表情のありかたのすべてで「きわめてエキサイティングに」観衆に伝えていく、という……。

〔PHOTO〕gettyimages

トランプは、すぐに絶叫する。言葉の抑揚をあざとく強調してみせる。口をすぼめる、眉根を寄せ眉尻を下げるなど「変な顔」を頻繁にする。ハンドサインの「OK」のような妙な手付きをする。繰り返しを多用し(very, very など)、また、同じ内容の話題をも「繰り返し」述べ続ける……。

こうした特徴をそなえたパフォーマンス術は、彼のほとんどすべての演説に生かされている。

だから当然、1月20日の大統領就任演説も「トランプ節」が全開だった。まず間違いなく悪い意味で歴史に残ること必至の、奇妙なあの演説が終わった直後のことだ。アメリカに住む僕の友人は、たったひとことでその内容を要約した。

「演説の内容は今までと同じで、何かアメリカのプロレスラーのマイクアピールを思い出してしまいました」

たしかに! あの「トランプ節」は、プロレス由来のものなのだ! とこのとき僕は膝を打った。

マンハッタンで働くビジネスマンであるその友人は、長年にわたる熱心なプロレス・ファンでもあった。もちろん全米最大最強の団体である〈WWE〉も追っていて……という人物の指摘を受けて、このとき僕は、ようやくにして気がついた。

トランプの語彙、話しかた、身振り手振り、あれらはすべてとても「リング映え」するものだ。リングの上で、レスラーという「虚像」を演じる際に発信される、戯画化されたセリフおよび肉体言語の数々と、トランプのそれは、まさに「そっくりそのまま」同じ傾向のものなのだ! 

トランプ節とは、アメリカン・レスラーのマイクアピール術と同じなのだ。「小学生なみ」で当たり前だ。だってプロレスなんだから……。

だから「トランプ節」は、彼のコア支持者に問答無用で受けた。前回の稿で分析した白人男性層とは、プロレス・ファンの主力と同じ層も数多く含まれている。だからまずトランプは彼らに対して「私も同じなんだよ」というメッセージを、全身全霊をもって伝えたわけだ。なにが「同じ」か? 「世界観が同じ」ということだ。

それが彼のパフォーマンス術の「最初の一歩」だった。そしてその「わかりやすさ」が受けに受けたため……今日までずっと、まるでそれを伝統芸のような「トランプ節」として継続しているというわけなのだ。

 

シンプルかつ快感原則に沿った世界観

では彼が「同じなんだよ」と言外にささやいた「世界観」とは、どんなものか?

これもアメリカン・プロレスに関係している、と言っていい。トランプは以下のように聴衆にアピールした。

「私は、『プロレスの世界と同程度に』世の中をシンプルに見るのが好きなんだ」と。

プロレスの世界では、善玉(ベビーフェイス)と悪玉(ヒール)の2種類のレスラーがいて、それぞれがそれぞれ「らしく」立ち居振る舞い、戦って、そこに生じる「ストーリー」に観客が熱中していく。

……それと同じように「アメリカ国内はもとより、一見複雑そうな世界情勢も、いちど頭を真っ白にして、単純化、簡略化して見てみないかね?」と、彼は主張した。シンプルかつ、快感原則にも沿った「私のストーリー」に、あなたも参加してみないかね?……と。

これこそが「わかる人にはわかる」どころか、人によっては「堪えられない」強烈な吸引力をそなえた「ささやき」だった。トランプにしかやれない「愛されパフォーマンス」の出発点はここだった、と僕は考える。