日本国民のための「PKO入門」〜平和とは何か、国際協調とは何か

「PKO法」の25年間と今後の課題
篠田 英朗 プロフィール

現代国連PKOの三原則を正しく理解する

あらためてPKO法の五原則を見直してみよう。

1.紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2.国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
3.当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4.上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
5.武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本とする。

これらのうち、最初の三つは、国連PKOが持つ原則を、そのまま採用したものだと言われている。だがそれは正確ではない。厳密に言えば、92年の段階で日本政府が国連PKOの原則だと考えたもの、にすぎない。実際の今日のPKOの原則は、これらとはずれている。

国連PKOの原則が明確に記されている『キャプストン・ドクトリン』(United Nations Peacekeeping Operations: Principles and Guidelines)と呼ばれる文書では、より簡潔に明確に書かれている。

つまり「当事者の合意(Consent of the parties)」、「公平性(Impartiality)」、「自衛・任務防衛以外の場合の武力の不行使(Non-use of force except in self-defence and defence of the mandate)」である。

「当事者の合意」原則については、国連は「停戦合意」に限定せず、和平に向けた「政治プロセス」への合意にまで意味を広くとっている。要するに国連PKOが活動することに合意があるかどうかを見定めるという原則である。

また日本政府のように、「国家または国家に準ずる主体」のようなものだけが「合意」する「当事者」だという限定も付けていない。国家主体でなくても、重要な「当事者」はいるだろう。

その一方で、活動開始後に、「当事者」が合意を撤回したり、合意を無視した行動に出たりする可能性についても、想定している。その場合には、国連は状況を見ながら対応していくが、毅然とした対応をとるべき状況も想定している。また「当事者」が深刻な戦争犯罪人である場合には、その当事者の合意にはこだわらないだろう。

いずれにせよ国連は、日本政府のように、少しでも当事者が合意に反した行動をとったら、一夜にしてPKOの活動基盤も消滅する、といった非現実的な想定はとっていない。

 

「公平性」原則は、日本では全く知られていない原則だと言ってよい。不偏不党性も意味する「公平性(impartiality)」は、実は国連によって明示的に「中立性(neutrality)」と区別されている。

つまり国連では、PKOの原則は、あくまでも「公平性」であって、必ずしも「中立性」ではない、と説明されている。どういうことかと言えば、「中立性」は、介入する第三者の立ち位置を示す概念であり、常に複数の紛争当事者の中間的な立場に立っていることを求める概念である。

たとえば、一つの紛争当事者が和平合意に違反していて、他の紛争当事者が遵守しているような場合であっても、「中立性」を標榜する場合には、どちらかの紛争当事者を支持するような立場をとってはいけないことになる。

これに対して「公平性」は、国際法や和平合意をはじめとする規範的な原則に忠実であることを、まず求める。したがって規範を破る違反者がいれば、その違反行為をとがめることに躊躇しない。

国連は、国際社会が信奉する規範原則に忠実であるべきで、自分の立ち位置を心配して日和見的な態度をとってはいけない、とされている。国連は、このことを、サッカーにおける審判のような(不偏不党を守りながらも違反があればレッドカードの発出を躊躇しない)態度だと説明している。

「武力の不行使」原則は、最近、日本では歪な形で誤解されている。「国連PKOは戦争する活動に変質した!」といった言い方が、マスコミ向けに流布されている。

しかし実際には、国連は、PKOは戦争をする活動ではない、と強調する。そのため、武力は行使しないのが原則だ。しかしそれでも軍事部隊を展開させるのは、脅威に対抗する準備を万全にしておくことは必要だと考えられているからだ。

国連PKOでは、自分自身(この場合は組織体としての国連の関係者という意味)を守る「自衛(self-defence)」の際に、武力を行使することが許される。さらに、任務の遂行にあたって、どうしても武力の行使をすることが必要とされる「任務防衛(defence of the mandate)」の場合も、武力不行使の原則の例外とされている。

もちろん些細な業務の遂行でも武力行使が許されるという意味ではなく、安全保障理事会があらかじめ国連憲章7章の権威を発動して設定した任務の場合には、必要に応じた武力行使が許可される、という理解である。

国際法では、国連憲章2条4項によって、一般に武力行使が禁止されているが、二つの例外が設定されている。憲章51条の自衛権の行使と、憲章7章の集団安全保障である。国連PKOの原則も、この国際法の仕組みにそった形で設定されているにすぎない。

それでも国連は、国連PKOは戦争をしないし、「平和執行(peace enforcement)」もしない、と繰り返し強調してきている。

自衛隊の南スーダン派遣を攻撃する日本の論者の中には、「実は国連PKOは戦争をしている!」といったセンセーショナルな言い方を繰り返す方が見られた。これは「武力の不行使」原則の政治的な曲解であり、根拠がなく、無責任である(参考「自衛隊南スーダン派遣をめぐる『ポスト事実』言説に対する検証」)。

日本国内で日本語で日本人向けにのみこうした主張をするのではなく、今後は是非、英語で、国連関係者の前で、この考えを主張していってほしいものである。