半年間、委員を務めさせていただいた経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」が終わり、報告書が提出された。
もともとこの会議は、女性活躍推進法後の企業のダイバーシティ推進について、「形式的に数値目標を達成することなどに終始して、結局競争戦略につながらなければ意味がない」という経産省サイドの問題意識ではじまった。
競争戦略として企業の成長につながる実質的なダイバーシティ2.0に進めるにはどうしたらいいのかということで、先進企業のベストプラクティスをもとに「7つのアクションプラン」が整理されている。
アクションプランは現時点で強制力もなければ、すぐに企業が使えるノウハウ集という形にもなっていない。ただ、この会議は経営者・人事担当役員など企業サイドと、投資家・ガバナンス専門家などの投資関係者が一堂に会したことに意義があったと思う。
会議の中では、ダイバーシティを本気で進めるには「トップダウンで力づくで既得権益を奪っていく必要がある」といったトップの覚悟を求める発言と、その必要性を裏付けるかのように投資家側から「CSR報告書のようなものではなく、アニュアルレポートや中期経営計画などトップがコミットしていると分かるよう、あらゆるIR資料に方針を書くべき」という声が出た。なぜダイバーシティが投資家にとっても重要なのか。
1つは、よく指摘される理由で、ダイバーシティ&インクルージョンが「イノベーション」につながるとされるためだ。多様な経験、能力、視点のある人が集まることが企業のパフォーマンスを上げるという研究や調査があり、投資家もアップサイドを狙いたいわけだ。
2つ目が、ガバナンスを効かせるためという理由だ。背景として、海外投資家の間でも、リーマンショックをきっかけに取締役会の女性比率など「ダイバーシティ」が強く意識されるようになったという。
リーマンショックの際、私も証券部記者として海の向こうから押し寄せる資本市場の混乱を目の当たりにしたが、どうして誰もリスクを指摘できなかったのかということが当然議論の遡上に上がる。
その中で、均質な人材の意思決定で突き進んでおり、多様性がない企業はガバナンスが効きづらいという認識が広まっていったようだ。また、多様性があっても「反対意見を言う」「人と違う行動をする」といった行動に「心理的な安全」(Psychological Safety)を感じられないような「インクルージョン」のない組織は、存続性や成長性においてリスクがあるということになる。