作者が明かす『罪の声』が15万部を突破するまでの「苦悶と戦略」

もう、「書けば終わり」ではない
塩田 武士 プロフィール

予想外の僥倖は、大竹まことさんと室井佑月さんの番組出演につながり、以後、講談社宣伝担当者の猛プッシュで、本書に推薦コメントを頂戴したジャーナリストの青木理さん、元宝塚トップスターの杜けあきさん、ラジオ界の重鎮である浜村淳さん、つぼイノリオさん、吉田照美さん、そして久米宏さんの番組に呼んでいただいた。約2時間の生出演となった杜さんとTBSラジオの久米さんの番組は特に反響が大きく、売上を伸ばした。

ラジオはテレビと異なり、知名度の低い私でも比較的長い「尺」を与えられる点がありがたい。私は聴取者の意見やSNSで飛び交う『罪の声』の感想をこまめに見て「ウケている要素」を確認し、生放送でもコンパクトに考えが述べられるよう「『罪の声』の創作過程とその魅力」「著者である私の経歴」「番組によっては必要となる時事問題」についてのエピソードを準備して、イメージ・トレーニングを繰り返した。

このほか、68歳になった今でも事件を追う「ミスター・グリ森」の加藤さんに再度取材し、1994年に加藤さんが放った幻のスクープ記事にまつわる話を掘り起こして原稿にまとめ「現代ビジネス」に配信。関東、関西、東北、九州、中国・四国の順で、各地域の書店に挨拶回りし、熱心な書店員の方々に創作の経緯について聞いていただいた。もちろん、エッセイや講演でも作品をPRすることを忘れなかった。

そして「第七回山田風太郎賞受賞」と「週刊文春ミステリーベスト10 国内部門第一位」という結果が、本書に彩を与えた点も見逃せない。過去八作で文学賞やランキングとは無縁だったので、小説家として純粋に嬉しかったが、一つのお墨付きを得たことで、広告や帯の文言にも説得力が増した。

書いて終わりではない

「創作」の段階から、取材協力者や情報入手にツキを感じていたが「販促」の段階になって、幸運という言葉だけでは片付けられない、作品の磁力を感じるようになった。出会う人と想定外のイベントが互いに引き合い、切れ目なく重なっていく現象は、必然とまでは言えないが偶然でもない。『罪の声』の発表後、担当編集者がまとめたプロモーション表は、現時点でA4用紙10枚を超える。

書いて終わりではなく、書いてから始めると意識したことで、却って原点回帰にもなった。作品の魅力を語り続けるには、まず物語に芯と地力が必要で、本が売れない時代と言われていても、きちんと読んでくださる方がいると実感できたことは大きい。「書く」ことと「売る」ことは二律背反ではなく、対であり“両輪”であることを学んだ。

作品のあとがきにこう記した。

「本作品はフィクションですが、モデルにした『グリコ・森永事件』の発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、その後の事件報道について、極力史実通りに再現しました。この戦後最大の未解決事件は『子どもを巻き込んだ事件なんだ』という強い想いから、本当にこのような人生があったかもしれない、と思える物語を書きたかったからです」

“両輪”が回って話題になることで「テープの子ども」に会えるかもしれない――。

作品の持つ磁力がカセットの磁気テープに反応する可能性を、私は本気で信じている。

(「小説を届けるための技法」を明かす、著者初のトークイベントが3月31日に開催されます。詳細はこちらをご確認ください→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51070

読書人の雑誌「本」2017年4月号より

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