高梨沙羅、錦織圭、前田健太、浅田真央、太田雄貴など各スポーツを代表する選手たちの共通点をご存じだろうか? すぐに答えられる方はかなりのスポーツ通といっていい。
答えは「ウイダートレーニングラボ」のサポートを受ける選手たちである。
「ウイダートレーニングラボ」(通称「ラボ」)は「ウイダーinゼリー」で有名な森永製菓が、正しいトレーニングを広めるために、1991年に作られた施設である。8名の経験豊富なトレーナーと4名の栄養士を抱え、選手を支えている。
しかし、そこの出入りを許されるのは、契約アスリートを中心にごく限られたメンバーのみだ。かなり限られたクローズドスペースとなっているため、一般人に知られることはあまりない。
田町駅から少し離れた倉庫街の一角。ここにアスリートたちの「虎の穴」、ラボはある。入り口には「エネルギーin」のロゴがあるのみ。まさに知る人だけが知っている、かなり隠れ家的なトレーニング施設だ。
「隠しているわけではありません。むしろ森永製菓としてこんな活動をやっていることを知って欲しい。でも1人ひとり丁寧に指導すると、今の人数ではすでに限界。残念ながら一般公開できないのが現状です」と、ラボマネージャーの井上毅彦氏は語る。
1人平均2時間程度、トレーナーが付いてトレーニングからケアまでこなす。さらに、前後では栄養士がコミュニケーションして相談に乗る。これだけやってもらえると選手にとっては心強いし、安心してトレーニングができる。
その反面、受け入れられる人の数はかなり限定されてしまうのは否めない。トレーナーも選手のリアルな要求に応えていくには、相当なレベルと経験値を求められるので簡単に増やせるわけもなく、今の状態になってしまうのだ。
実際のトレーニング内容も、種目によって、選手によってかなり異なる。そのスポーツの特性をよく理解し、選手をしっかりと把握できていないと、とても指導などできない。
トレーナーや栄養士は指導している以外の時間も準備や勉強をしていないと結果を導き出すことなど難しい。選手のレベルもモチベーションも一流なので、指導する側も一流が求められるのだ。
これだけの指導を行っていると、様々な手法やメゾットが蓄積されるはず。それをここだけに留めるのはもったいない。企業秘密で外に出さないのだろうか。
「これまでも学会等での発表は行っています。さらに栄養士がチームや学校などに指導しに行く機会も作っています。ただ、トレーニングにおいてはそんな機会があまりなかったのが事実です」と井上氏は説明する。
今後についても「我々もラボのこれからの役割を模索しているところ。我々の蓄積されたメゾットをどうやって社会に還元していくのか、その方法を検討しています」と、前向きなコメントを残した。
トップアスリートで得られたノウハウを、一般人の健康に役立てる。これこそ競技スポーツに求められる社会還元といえる。
だが、それを個人レベルで行うのは非常に難しく、研究機関などでも机上の空論になることが多い。それを一企業のトレーニング施設ができたとしたら素晴らしいことだ。
2020年に金メダルを取った、いや取れなくとも、それに向けたトレーニングや食事をブレイクダウンして国民に活用されるならば、これぞオリンピックレガシーと言えるのではないか。なにもレガシーは施設や強化だけではなく、このようなソフト面もあっていいはずだ。
2021年、僕たちはどんな社会を迎えるのか、近い未来に向けて不安と希望が膨らむ。でも、こんな話を聞いていると、なんとなく不安よりもワクワクしてくる。このワクワクが大事なんだよねぇ、きっと。
トレーニングしていないのに、なんだか強くなった気分でウイダーラボを後にした。