絶対に終わらせないといけない仕事がある。いざ意気込んでデスクに向かうも、日頃の疲れからかついウトウト。記憶が遠のき、気付けば朝――。
作業をしている最中に寝てしまうことを、俗に「寝落ち」という。これは「落ちる」というインターネット用語に由来していて、ゲームやチャットの回線から「落ちる」、つまりログアウトするという意味で使う。「寝るから落ちるね」とチャットで言うのが転じたものだ。
だが、これは人間に限った話ではない。我々と同様に「寝落ち」する生物はたくさんいる。
まずはマグロ。
マグロなどの回遊魚は眠ることなく、常に群れで泳ぎ続けることができる。だがよく見ていると時折、群れから「脱落」し、動きを止めるものが出てくる。回遊魚といえども、ふとした瞬間に運動神経がオフになってしまうタイミングがあるのだ。
続いて鳥類では、カオジロガンが「寝落ち」することで知られている。
このガンは北海道から北極まで3000キロを飛行するタフな鳥だが、空を飛ぶ群れを見ていると、急に動きを止めて高度を下げる個体がいる。ものの数秒だが、このときガンは「寝落ち」しているとみられる。
陸上生物では、キリンがそうだ。
実はキリンは一回に約20分しか睡眠を取らない。これだけのショートスリーパーなのは、肉食動物に捕食されないためである。群れで行動するキリンは、その短い時間に見張り役を立てて眠るのだ。
ところがある夜、見張りのために立つ個体を観察したところ……。夜が更けるにつれて、キリンはいかにも眠そうな仕草を見せはじめた。
もちろん見張りなので、首を高く持ち上げていないとライオンやチーターに命を脅かされる。ところが努力の甲斐むなしく、だんだん、首が垂れ下がってきてウトウト。さらに時間が経つと、4本脚で立ってはいるが、前足がガクガクしてきて、地面に崩れ落ちてしまった。
群れで行動する動物の寝落ちは、時には命取りになることもある。そこも人間と一緒だ。(嶋)
『週刊現代』2017年3月25日・4月1日号より