NHK解説委員「水野さん」が語る、いま福島で起きていること

人は忘れていく。だからこそ伝えたい
週刊現代 プロフィール

あの時は、少し仮眠を取ってはスタジオに入るという状況でしたから、世間がどういう状態になっているのかわからなかった。当分、帰れそうもないので自宅に電話し、家族に「しばらく実家にでも行っていたらどうか」と深い意味はなく口にしました。

すると妻が、「今、うちが移動したらご近所がパニックになってしまう」という。あの頃は首都圏も安全なのかと皆さん疑心暗鬼になっていたようで近所の人からは「避難したほうがいいとなったなら教えてくれ」と言われていたそうです。

そんな中、旅行かばんを抱えて玄関を出たら「水野家が動くということは、いよいよ首都圏も危ないんだ。それで出て行ったんだ」と見られてしまうから、と。世の中は今、そんな風になっているのかと驚きました。

 

現在は事故直後と違って福島原発の話題なら、なんでもニュースになるという状況ではなくなりました。だからこそ、伝える意味はどこにあるのかを考え、見せ方、出し方に工夫を凝らしつつ、課題を指摘し、「こうしたらいいのではないか」といった提言をするよう努力しています。

昨今では福島から避難した子どもに対するイジメや差別といった問題も起こっています。こういったことも、福島の現状や放射能についてよく知らないことから起きているケースが少なくありません。やはり原発の今、福島の今を伝え続けなければならない。メディアの役割は重要だと思います。

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私が感じている「責任」

廃炉作業は日本全体の問題です。英知を結集させて取り組まなくてはなりません。

東電はトラブルを起こしたり通報が遅くなったりとよく問題を起こしますが、廃炉は彼らを中心にやり遂げてもらわなければならない。そのためにも報道の立場から、正しく問題点を指摘し続けなければならないと思っています。

NHKという組織だからこそ、自分は継続的に原発問題に携わることができたわけで、それだけに責任も感じています。

今、廃炉の現場は、若い技術者の確保にも頭を悩ませています。どうしても後ろ向きなイメージが付きまとい、若い人に敬遠されがちなのです。

でも、廃炉は大事な国家事業であり、最先端のロボットを設計したり取り出し技術を開発する、やりがいのある研究開発現場でもあります。そういった点も交えて、もっと幅の広い視点で廃炉作業を、メディアも伝えるべきなのかもしれません。

政府は40年で廃炉を完了させると言っていますが、取り出した核燃料の最終処分も考えればもっと時間がかかる可能性もあります。今、生きている人で福島の廃炉を見届けられる人が、一体どれだけいるのか。

私の先輩の解説委員からは「お前、廃炉になった福島原発の前で最後のリポートをしろよ」と言われ、是非そうしたいと思ってはいますが、そこまで私が現役でいられるかどうか……。でも、誰に何と言われようが私はその過程を見届けていきたい。これからも伝え続けます。

構成・石井妙子

「週刊現代」2017年3月18日号より