トランプ政権の屋台骨を揺るがす「5人の弁護士」に注目せよ

トンデモ法曹から目が離せない【後編】
山口 真由 プロフィール

ゴーサッチの母親は、レーガン政権下で女性初の環境保護省のトップを務めた人物だ。ワシントンで幼少時代を過ごしたゴーサッチは、ハーバード・ロースクールを「優等」で卒業。当時のクラスメイトにはバラク・オバマ前大統領がいたという。

その後、オックスフォード大学留学を経て、帰国後には2人の連邦最高裁判事の調査官を務めている。前編で述べたように、最高裁判事の調査官はスーパーエリート法曹の登竜門だ。ちなみに、仕えた2人の一方は、いまも最高裁判事を務めるアンソニー・ケネディである。

 

一方、トーマス・ハーディマンは、並みならぬ苦労でいまの地位を手に入れた人物だ。ハーディマンの両親は、ブルーカラー労働者だった。地元の高校で生徒会長を務めた彼は、奨学金を得てノートルダム大学に進学。一族で初めての大学進学者となった。

その後、ジョージタウン大学ローセンター(法科大学院)に進学。高校・大学を通してタクシードライバーとして働き、大学院時代には法律事務所でアルバイトして学費を稼いだという。(「ジョージタウン・ロー」2010年10月20日付、「ABCニュース」2017年1月31日付)

ゴーサッチに比べると経歴で見劣りするのは否めないが、ハーディマンが立派な判事であることは間違いない。2007年に彼が高裁判事として上院の承認を受けるとき、民主党を含めて反対する者は誰もいなかったほどだ。

「反エスタブリッシュメント」はどこへ

トランプの中心的な支持層である白人労働者層へのウケを考えれば、ハーディマンが選ばれる可能性が高い。大方がそう予想した。格差社会の苦労のなかから這い上がって、アメリカ法曹界最高の地位に就く――。ピラミッドの下部でもがき続ける低所得の白人層からすると、胸がすくようなサクセスストーリーではないか。

ちなみに、トランプの実姉で高裁判事を務めるマリアン・トランプも、ハーディマンの就任を熱烈に後押しした。マリアンはハーディマンと一緒に働いた経験がある。トランプも人格者の姉を尊敬し、その意見を尊重するとみられていた(「ニュースマックス」2017年1月26日)。

ところが、である。ふたを開けてみると、トランプが指名したのはゴーサッチのほうだった。ブッシュ政権やオバマ政権と同じように、スーパーエリートを最高裁に送り込もうというのである。

ゴーサッチは、知的で洗練されているうえ、ユーモアも持ち合わせている。非の打ち所がない法律家だ。共和党のエスタブリッシュメント層は当然大満足だし、民主党もさすがに文句をつけがたい。しかし、「反エスタブリッシュメント」を支持層とするトランプの判断としては、腑に落ちない感じもする。

実際、ゴーサッチは指名を受けたあとで、連邦地裁の判断をツイッターで批判したトランプ大統領に「がっかりする」などと発言。最高裁判事候補はトランプの絶対支持者でないことが、すでに明らかになっている。

米最高裁判事に指名されたニール・ゴーサッチ〔PHOTO〕gettyimages

強烈な主張を持ったアクの強い弁護士が指名されているのは、イスラエル問題、貿易や投資規制など、明らかにトランプ本人が強い興味関心を持っている分野ばかり。安全保障分野に第一級の軍人たちを招聘したのと同じで、徹底的なこだわりが見て取れる。

一方、政治全般に関わる重要ポストながら、さほど興味がないのか、連邦最高裁判事には誰もが認めるさほど癖のないエリート弁護士を登用している。結果として、自ら指名したその弁護士は、早くも「がっかりする」といった発言で、政権の足並みを乱すのに一役買っている。

こうした自由気ままな弁護士人事は、政権の行く先をどんな帰結に導くのか。トランプ政権からますます目が離せない。