「兄は失恋で涙を流す、繊細な男」ドゥテルテ大統領・妹の告白

家族だけが知る素顔とは
水谷 竹秀 プロフィール

ドゥテルテ氏には現在、内縁の妻と娘が1人いる。が、前妻との関係もあるため、いわゆるファーストレディーは実在していない。仮に内縁の妻をファーストレディーにした場合、前妻の子供たち(娘はダバオ市長、息子は同副市長)とこじれる可能性があるためだ。側近によると、昨年10月に日本を訪問した際も、内縁の妻は同行しなかった。

そしてこの「2人の妻」の前に、10年近く交際し、結婚まで約束していた女性がいたというのだ。その女性、ジャネットはフィリピン人と米国人のハーフで、2人は大学時代に知り合った。ところが、ドゥテルテ氏がなかなか結婚に踏み切らなかったため、ジャネットは彼をおいて米国へ渡ってしまったという。ドゥテルテ氏が30歳ぐらいの時のことだ。ジョセリンさんは笑いながらこう口にした。

「そしたら今度は兄がジャネットを追い掛けてカリフォルニア州まで1人で行ってしまったんです。でもジャネットはすでに相手を見つけていたらしく、失恋してフィリピンに戻ってきました。その後、自宅で泣いている兄の姿を見掛けました」

感傷に浸りながら兄が聞いていたのが、1978年にリリースされた米国人女性歌手、ドナ・サマー氏の「マッカーサー・パーク」という曲だった。

緑の風が吹き下ろす 
誰かが雨の中で 
ケーキを食べ残したのね・・・・・・・

当時を思い出したジョセリンさんが優しい声で歌詞を口ずさんだ。

家族として、大統領として

<やっとディゴン(ドゥテルテ氏の愛称)が大統領選への立候補を正式に表明した。これで我々は心を休ませることができる>

ジョセリンさんのフェイスブックをのぞくと、大統領選のおよそ半年前に当たる2015年11月下旬にこのような投稿がアップされている。以来、ジョセリンさんはフェイスブックを活用して広報活動を続け、ドゥテルテ氏の選挙運動を裏で支えてきた。

「兄が選挙で勝利を収めたのはフェイスブックの役割が大きい。特に海外に住むフィリピン人海外就労者(OFW)が、私の投稿を見て応援してくれました」

 

大統領になった今、以前ほどは連絡を取らなくなったというが、ジョセリンさんは遠く離れた首都マニラで奮闘する兄の姿を見守り続け、次のようなエールを送った。

「私が兄を支持するのは家族だからではなく、変革を求めているから。歴代政権下、この国では汚職がまん延してきましたが、兄は今、その状況を打開しようとしている。彼は有言実行の人。でも一部のエリート層からは敵視されている。なぜならフィリピン史上、ミンダナオ地方出身の大統領は兄が初めてだから。大統領任務は孤独との闘いかもしれない。周囲の人間に裏切られることがあるかもしれない。だけど健康に気を付けてこれからも頑張って欲しい」

家族や同志に囲まれていた地元とは異なり、大統領はすでに国内外で「アウェーの洗礼」を受けている。麻薬撲滅戦争で相次いだ国際社会やメディアからの非難に加え、最近ではドゥテルテ批判の急先鋒だった上院議員が逮捕されたことで、野党勢からは「政敵を排除する独裁者」などと酷評されている。

子供の頃は間近でやんちゃな姿を見てきたが、そんな兄は今やテレビや新聞を通じた遠い存在になりつつある。家族としては一抹の不安を見せながらも、一国民としては変革に期待する交錯した感情が、ジョセリンさんの言葉の端々に感じられた。