アドフラウド(広告詐欺)の被害が年間100億円超――。
『読売新聞』(2月18日付)が1面トップで報じた記事が波紋を広げている。
「ネット広告は仕組みが複雑なうえ、日々、技術が進歩しているので業者任せ。広告の質や量をごまかされているんじゃないかという不安があったけど、案の定だった」
こんな感想を漏らす広告主が少なくない。
海外発でアドフラウド被害が報じられ、アダルトサイトに一流企業の広告が掲載されている状況から判断して、日本の状況も寒々としたものであるのは想像できたが、本格的に調査されたことはなかった。
「アドフラウドに関する国内データが明らかになるのは初めて」と、読売は胸を張る。
だが、ネット広告業者は、「ボット(機械的運用)によるサイトの高速更新などで、人が見ていないのに閲覧数を稼ぐような不正が横行しているのは、誰でも知っている。むしろ、年間100億円という数字の少なさに驚いた」と、正直な感想を漏らす。
実際、2年前に独自動車メーカーが北米の広告配信業者を訴えた事件では、配信した広告の57%がボットによる水増しだった。衝撃を受けた米の業界調査によって、そうした不正が6~7%に達することが判明した。
それだけに前述の業者は、「100億円超は全体の1.7%ということだが、どう考えても甘い数字。アドフラウドは、5%以上あると思う」と、指摘する。
現在のネット広告は、サイトを訪れたユーザーや趣味嗜好などを、ネット広告業者が行動履歴のクッキーを利用して読み込み、広告主の希望する条件のユーザーに広告を配信する「運用型」が主流である。
電通のまとめでは、15年のネット広告費9194億円のうち運用型は6226億円。読売の「100億円超」は、約90万サイトを2年間にわたって調査した結果、約6億7000万回の表示に約1100万回(1.7%)の水増し表示があったということだが、「体感」としての5%なら100億円超は、300億円超に跳ね上がる。
実際、ボットによる水増し以外にも、閲覧されない画面下に置かれた「隠し広告」、アクセスを大量生成する「トラフィックエクスチェンジ」、ユーザーを偽装する「偽装ブラウザ」などアドフラウドの種類は尽きず、不正金額はさらに膨れ上がる。
従って、今回読売が指摘したのは、ネット広告の「量のウソ」の一部をデータとして証明しただけ。これに付け加えるべきは「質のウソ」である。
運用型では、ユーザーがサイトを開くと瞬時に入札が行われて広告が表示される。その多くはRTB(リアルタイム・ビッティング)と呼ばれる自動広告買い付けシステムだが、広告主が期待するのは、ブランド力を高められる質の高い情報サイトへの出稿であり、かつ成約に至るクリックに結びつくようなターゲティングが出来ている方が望ましい。
だが、ネット広告業者は質を問わない。というより、良質な情報サイトは広告掲載単価のCPM(コストパーミル=1000表示に対するコスト)も高くなるので、ごく一般的なサイトや低レベルの安価なCPMのサイトも必要とする。“まぜこぜ”にして表示数を稼ぐとともに、CPMの単価を引き下げることで自分たちの利益を引き上げるのだ。