アスクルはどうなる?「倉庫大火災」が露わにした物流リスク

被害総額は500億円を超える
週刊現代 プロフィール

広報担当者も完全復旧の見通しはまったく立っていないことを認める。

「ロハコに関しては今月中にサービスの正常化を目指していますが、完全にすべての商品が揃うわけではないという認識です。

たとえば、『ろはこ米』という人気商品があります。これは(今回燃えた物流センターの)内部に精米所があり、出荷当日に精米してお届けするサービスだったんですが、他の物流センターに対応する機能がなく、再開の見通しは立っていないという状況です」

『再生巨流』や『ドッグファイト』など物流業界を舞台にした作品がある作家の楡周平氏が、同社の先行きを案じる。

「物流を制した企業がネット通販業界を制する。それを世界で最もよく理解しているのがアマゾンですが、アスクルも同様に配送システムの進化を積極的に進めてきました。今回火災が起きた埼玉の物流センターは、その象徴と言ってもいい施設です。

202億円もの莫大な費用を投じましたが、開設してからまだ4年も経過していないことを考えれば、投資効果計算が根底から覆る。これは大問題です」

現状、アマゾンをはじめ、通販各社はいかに早く商品を届けるかを競っている。アマゾンが注文から1時間で配送する「プライムナウ」を開始すると、家電量販店大手のヨドバシカメラも最短2時間半で届けるサービスを開始。同社は家電に限らず、食品や飲料といった日用品のネット通販にも乗り出している。

ヤフーが見捨てたら終わり

アスクルも1時間刻みで到着時間を指定できるうえ、実際に届く時間を30分単位で購入者に通知し、到着10分前にはスマートフォンに最終連絡が来るサービスをロハコで開始していた。だが、今回の火災でこのサービスを拡充させる余裕はなくなった。

それどころか、翌日配送を謳ってきた東日本エリアでは翌々日配送となり、当日配送エリアだった首都圏で、翌日配送になる可能性が高い。

その結果、アスクルの顧客が同業他社の草刈り場になる可能性があると、前出の鈴木氏が言う。

「ネット通販業界の一番の売りは発注してから24時間以内や翌日に届くというスピーディーな配送であり、それが同業他社間の競争の最大のテーマになっています。

それが一時的にせよ、できなくなるということは、その間の売り上げを他社に取られてしまうだけでなく、その後の信頼性にも関わります。『明日来るじゃなくて、明後日来る』というマイナスイメージが定着してしまうおそれさえあるでしょう」

さらにアスクルの頭を悩ませるのが、追加のコスト負担だ。前出の加谷氏はこう指摘する。

「物流センターの立て直しには、どれだけ早くても2年はかかる。その間、サプライチェーンが混乱して、長期的に業績が低迷することが考えられます。

アスクルは関西に新しい物流センターを作り、年内にも稼働させる予定でした。仮にこれを前倒しにして埼玉の分をカバーするにしても、東日本地域にまで商品を届けるには輸送費用がかさむことは避けられません」

アスクルがロハコに投資した金額は、少なく見積もっても330億円に上る。同業他社に客を奪われて業績が悪化すれば、黒字化が達成できないどころか、当面にわたって赤字を垂れ流す他ない。仮に3年にわたって、毎年50億円の赤字を計上すれば、累積赤字は総額500億円にも上る。

同社の株式の41.67%を握るヤフーが手を引いてしまえば、ロハコどころか、本業の法人向け通販さえ続けていられる保証はない。最悪の結果、会社が潰れる可能性すら考えられるのだ。

ヤフーの広報担当者はこう言う。

「何も考えていないわけではありませんが、現在(21日)は倉庫に入れない状態のため、損害の状況確認ができておりません。そのため、業績の見直しなども含めて、現時点では『未定』となっております」

今回の火災は、すべての企業にとって他人事ではない。たった一つのアクシデントで商品の配送網が崩壊し、会社が潰れてしまう可能性があることが改めて浮き彫りになったのである。

「週刊現代」2017年3月11日号より