香港トップは誰になるのか? 返還から20年、ここが大きな分岐点だ

番狂わせか、香港の「中国化」か
野嶋 剛 プロフィール

市民の好感度は曽俊華の方が高い

林鄭月娥も、もともとは政権の中では、香港社会にひどく嫌われてきた現・行政長官の梁振英よりも開明的な人物だとみられていたが、雨傘運動で抗議デモに対して強硬な姿勢をとり、今回、北京の「いち押し」候補になったことから、世の中の評判は急落した。

世論調査では、明るい性格やノリの良さ、長年経済閣僚を務めてきたことで香港人が最も重視する経済政策に明るいとことなども評価され、対立候補の曽俊華の好感度は、大きく林鄭月娥のそれをしのいでいる。

曽俊華(ジョン・ツァン)photo by gettyimages

しかしながら、香港の人々が「偽選挙」と揶揄するように、民意が反映されない形の間接選挙方式をとっている香港では、民間での人気が選挙の結果に結びつかない。香港では経済界や職能団体から選ばれた1500人の選挙委員を対象に、3月1日までに150人の推薦を集めた人物が立候補を認められ、3月26日の選挙を戦うことになる。この選挙委員は親北京政府が多数を占めており、その点では常識的には推薦人だけですでに579人を集めた林鄭月娥の優位は揺るがない。

しかし、今回の選挙では、過去になかった新しい状況が生まれていることが面白いところだ。それは、民主派がキャスティングボードを握れるかもしれない、という可能性が、かすかにでも、見えている点である。

9月に行われた立法会選挙で民主派は議席を伸ばし、さらに後に行われた選挙委員を選ぶ選挙でも、過去最高の326人を民主派から当選させることができた。独自候補を立てるまではいかなくても、もし2人の争いが拮抗した場合、大勢を左右するのが民主派の票ということも可能性としてはあり得るのだ。

現在、民主派は基本的に曽俊華を支持する方向で動いているとされる。あとは、北京に近年潜在的に不満を持つとされる香港経済界が、果たして今回、北京の願うように林鄭月娥に一票を入れるかどうかである。

 

香港返還以来、香港経済界は「親中勢力」の代表格であり、中国本国の対香港工作もいかに香港の企業を利益誘導なども絡めて味方に引きつけるかに主眼を置いてきた。そして、中国の高度成長期と相まってその方式は成功を収めてきたと言っていい。

しかし、昨今は大陸での香港企業のビジネスに陰りが出ているとされ、さらに中国企業の成長によって逆に香港のなかで香港企業との勢力争いも起きており、著名企業家・李嘉誠率いる長江グループのように中国での事業縮小を考える動きもあるなど、香港経済界の対中観も一つの曲がり角に差し掛かってきている。