クアラルンプール空港での「金正男暗殺事件」は、2月13日の発生から2週間余りを経て、北朝鮮・マレーシア間の国際問題に発展している。このまま対立が続けば、これまで蜜月関係を築いてきた両国が、国交断絶にもなりかねない情勢だ。
だが実際には、北朝鮮とマレーシアという「小国」のバックには、アメリカと中国という「大国」が控えている。そして「小国同士の戦い」の舞台裏では、米中両大国の激しい神経戦が展開されているのである。
例えば、今回の事件捜査に関して、マレーシア警察の手際の良さが際立っている。クアラルンプール在住のマレーシア人の知人に訊ねてみたが、「他の事件捜査の時とはまるで違うわが国の警察の能力に国民は驚愕している」と言う。
なぜマレーシア警察が突然、これほど有能になったかと言えば、考えられる理由は一つしかない。それは、アメリカが多くの捜査情報を提供し、捜査のお膳立てをしてあげているからである。
現在キーパーソンになっているのが、金正男氏の息子である金ハンソル氏(21歳)である。マレーシア警察のカリド・アブバカル長官は、2月22日の会見で、「ハンソル氏はマレーシアに入国していない」と、無念そうな表情で語った。
マレーシアとすれば、金正男氏があのような無残な形で毒殺されたいま、息子のハンソル氏にマレーシアへ来てもらい、DNA鑑定を受けてほしい。そして殺害されたのが、北朝鮮側が主張する「外交官のキム・チョル」ではなく、「金正日総書記の長男で民間人の金正男」であることを証明できれば、遺体がウイーン条約で定めた外交官特権の行使対象外とみなせる。
加えて、ハンソル氏がマレーシアで、世界に向けて涙の会見でも開いてくれれば、この事件をめぐる北朝鮮との争いに、決定的な作用を及ぼすと見ているわけだ。
マレーシアと同じことを考えているのがアメリカである。そのためアメリカは、マレーシアをバックアップするという名目で、軍の輸送機をマカオまで飛ばして、ハンソル氏をクアラルンプールまで連れて来ようとしているという。