原発利権に斬りこめ! 知られざる「国税局内偵班」の戦い

「最後の砦」はあきらめが悪い
上田二郎

原発利権をめぐるナサケとミの大激論

ところで、マルサには政治家の介入や大物OB税理士の横やりなどの調査の圧力は存在しない。内偵班の最大の関門は、実際に強制調査に入る実施班と侃々諤々の議論を交わす情報検討会だ。

映画やドラマでははっきりと描かれないが、マルサには内偵調査を専門に活動する内偵班(通称、ナサケ)と内偵調査の結果を受けて強制調査に入る実施班(通称、ミ)が存在する。ナサケは情報の「情」を表し、ミは実施の「実」を表す隠語で業務は完全分業制だ。

内偵班は脱税者を見つけて強制調査に着手するまでを受け持ち、実施班は強制調査に着手して、脱税の事実や脱税額を確定し検察に告発するまでを受け持つ。

実施班は実際にターゲットと対峙して強制調査を行い、それに失敗した場合は全責任を負わなければならない。

一方の内偵班は、ターゲットに察知されることなく、帳簿を見ることも話を聞くこともなく秘密裡に進めなければならない。そのため、内偵調査には限界がある。目標が違う部隊が互いのプライドをかけて激論を交わす検討会が時に紛糾するのは、当たり前のことだ。

検討会の一コマをこれから紹介しよう。事案は建設業界にはびこるキックバックの事例である。

 

実施幹部「架空外注費は分かった。しかし、お前ら少し汗のかき方が足りない(努力が足りない)んじゃないか? 踏み込んでからキックバックした相手を解明して
も遅い。裁判官から追加令状をもらってからでは、証拠は消されてしまう。真
のターゲットを解明してから強制調査を行うのが筋だろう?」

上田  「しかし張り込みにも限界があります。不正加担している会社の社長が口座から現金を引き出して、カネをバックした事実は確認しています。しかし、カネが持ち込まれてしまうと、誰が運び出すのかが分かりません。二度張り込みをしましたが、同じ動きをしています」

実施幹部「二度では足りない。三度も四度もやって、毎日の動きを追っかけて真実を確認しろ。この事案を受け取る実施班の苦労も考えろ。内偵班でやれることを全部やって、その結果を見てから着手するかどうかを判断する」

情報幹部「何日間、張り込めば納得してくれます?」

実施幹部「……少なくとも1ヵ月だな。毎日、1ヵ月間徹底して張り込めば、何かが見えてくるかもしれないね」

情報幹部「分かりました。1ヵ月間、張り込みをさせましょう」

真実を追う手段として強制調査に入り、そこから脱税の果実を享受した者(真の帰属者と呼ぶ)を焙りだしたい内偵班と、真の帰属者がターゲットでないことが分かっているため、解明してから強制調査をしたい実施班が鋭く対立し、長期間の張り込みが命じられた。

原発の建設・運営には利権が複雑に絡み、近隣対策費などの裏金が必要な場合がある。だが、会社にとって必要不可欠な支出であるにもかかわらず、社会通念上の理由から会社の費用として認められないばかりか、制裁的なペナルティーが課されるため、様々な手段で裏金を作ろうと画策する。

使途秘匿金としてペナルティーさえ支払っておけば、強制調査をされずに済んだかもしれない。にもかかわらず、尻尾を掴まれて強制調査をされた挙げ句、その後10年以上も監視される結果になった。この執念、あきらめの悪さこそが「国税最後の砦」マルサの特徴である。