地球で1000年ぶりの「大地変動の時代」がはじまった!

そもそも「地学」とは何か?
鎌田 浩毅 プロフィール

地学の危機

地学をめぐる問題は、もう一つあります。高校の理科には「地学」の教科が用意されていますが、最近の地学の履修率がきわだって低いのです。

普通科のすべての生徒が選択する基礎科目では、「化学基礎」や「生物基礎」が90%を超えるのに対して、「地学基礎」は34%でしかありません。

さらに、その先で「地学」を選択する生徒は、わずかに1.2%しかいないという報告があります。すなわち、日本人全員の100分の1しか高校できちんと地学を学んでいないのです。

 

これは地学に関心がないのではなく、大学受験用の科目として地学が選ばれにくいのが原因です。以前は理科の四教科はすべてが必修であり、私が通っていた筑波大附属駒場高校の地学は、生徒にとって非常に興味をそそる科目の一つでした。

ところが現在では、大学が受験に指定する科目が物理・化学・生物の三科目であることがほとんどで、そのため、地学を開講する高校が激減してしまったというのが実情です。

しかし、高校の地学には、21世紀になってからの研究の最先端が教えられるという特徴があります。ほかの科目と比べてみると、違いがよくわかります。

数学では17世紀までに発達した微積分などの内容が教えられ、化学では19世紀までに発見された内容までが教科書に載ります。また物理では20世紀初頭に展開された原子核物理学までが教えられ、生物では少し時代が下りますが20世紀後半に進歩した免疫や遺伝子操作までが入っています。

これに対して地学では、まさに今世紀になって新しい研究が展開中のプルーム・テクトニクスや、地球温暖化問題が教科書で扱われているのです。

私が「出前授業」で高校生に地学を教える際にも、前の週に印刷された論文の最新の内容を紹介したりしています。つまり、地学には、現代に生きる人々に身近でかつ必要な材料がそのまま使われているのです。

近年の私は、専門領域である火山研究に加えて、「科学の伝道師」としての活動を行っています。その大きな理由は、地学は日本人にとってきわめて重要な知識だと考えるからです。

日本列島では地震や噴火が頻発していますが、これは2011年に起きた東日本大震災(いわゆる「3.11」)と関係があるのです。あのマグニチュード9という巨大地震によって、日本列島の地盤は不安定になりました。最近よく起きる地震と噴火は、地盤に加えられた歪みを解消しようとして発生しているのです。

こうした事実に対して私は、1000年ぶりの「大地変動の時代」が始まってしまった、と警鐘を鳴らしてきました。おそらく今後、数十年という期間にわたって、地震と噴火は止むことはないと予想されています。

これに加えて、おびただしい数の人を巻き込む激甚災害が近い将来に控えています。

すなわち、首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山をはじめとする活火山の噴火などの、地球にまつわる自然災害が、いつ起きても不思議ではない時代に入っているのです。

こうした大事なことを学校で学ぶ機会が減っているのは、国民的損失ではないかと私は危惧しています。

地学の知識は、単に好奇心を満たすだけではなく、災害から自分の身を守る際にもたいへん役立つものです。その意味からも、私は一人でも多くの日本人に、地学に関心を持っていただくことを願っています。そのために日本列島で始まった種々の地殻変動がいかなるメカニズムで起きているかを理解し、効果的な対処をしていただきたいのです。

イギリスの哲学者フランシス・ベーコンが説いた「知識は力なり」というフレーズは、まさに現代の日本社会に当てはまるものです。拙著『地学ノススメ』では地学の中でもわれわれに身近なテーマに絞り、ポイントをわかりやすく解説しました。読み終えた暁には、地学が「面白くてタメになる」ことに賛同していただけるのではないかと思います。

では、人類が3000年もかけて築き上げてきた地学の世界へご案内しましょう。

著者 鎌田浩毅(かまた・ひろき)
一九五五年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。日本火山学会理事、日本地質学会火山部会長等を歴任。京大の講義は毎年数百人を集める人気で教養科目1位の評価。科学啓発に熱心な「科学の伝道師」としても活躍中。著書に『富士山噴火』(ブルーバックス)、『地球の歴史』(中公新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『生き抜くための地震学』(ちくま新書)、『西日本大震災に備えよ』(PHP新書)、『火山はすごい』(PHP文庫)、『一生モノの勉強法』(東洋経済新報社)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)など。
ホームページ:http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/
地学ノススメ
「日本列島のいま」を知るために

鎌田浩毅=著

発行年月日: 2017/02/20
ページ数: 288
シリーズ通巻番号: B2002

定価:本体  980円(税別)

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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)