アメリカが進める金正恩政権「転覆計画」の全貌

正男暗殺の引き金はこれだった
近藤 大介 プロフィール

信託統治――1945年8月15日に日本が無条件降伏し、それまで35年にわたる植民地支配を終焉させた後、アメリカとソ連は、朝鮮半島を両国の共同管理下に置こうとした。それが信託統治である。だが、米ソの交渉は決裂し、朝鮮半島の南北が、それぞれ独立を宣言。1950年に朝鮮戦争が勃発した。

それをアメリカは、第二次世界大戦後の原点に、北朝鮮を戻そうというのである。

中露を説得できるのか?

それは、日本政府高官たちにとって、にわかには信じられないプランだった。

そこで日本側は、二つの質問を浴びせた。一つ目は、「中国とロシアへの説得はどうなっているのか?」というものだった。

ラッセル次官補が答えた。

「それは、(トランプ)新政権が発足してからの作業になる。

もちろん中国とロシアが、ワシントンの提案に簡単には乗ってこないだろうことは覚悟している。だが、このままではもう北朝鮮問題は袋小路なのだ。国連安保理で何度、制裁決議しても、無意味ではないか。

だから新政権では、オバマ時代と違って、より積極的なプランを進めていくつもりだ。そしてこのプランに、中国とロシアを巻き込んでいく」

その言葉は、自信に満ちていた。

日本側の二つ目の質問は、「日本にはどのような役割を期待しているのか?」だった。

 

この問いに対しては、ラッセル次官補は、やや表情を和らげて答えた。

「日本は小泉(純一郎)政権時代に(2002年9月)、北朝鮮と『日朝平壌宣言』を交わし、国交正常化を実現しようとした。その際、国交正常化したら、35年の植民地支配の賠償に代わる措置として、北朝鮮に多額の経済協力を実施することになっていた。

その経済協力をお願いしたいのだ。米中ロ3ヵ国による北朝鮮の信託統治には、多額の費用がかかるからだ」

小泉首相が訪朝し、金正日総書記と「日朝平壌宣言」にサインした時、私も同行取材で平壌に行っていたので、よく記憶している。当時、「1兆円の経済協力」という言葉が飛び交っていた。

1965年に日韓が国交正常化を果たした際、日本は韓国に、3億ドルの無償援助と2億ドルの有償援助を行った。この計5億ドルを'02年の物価に換算すれば、約1兆円になるというのだ。

そのため日本政府は、金正恩政権とであれ、信託統治下の政権とであれ、日本が北朝鮮と国交正常化を果たした暁には、北朝鮮に対して1兆円規模の経済協力を行う覚悟ができている。

さらに日本側は、二つの重要な質問を発した。

一つは、北朝鮮を信託統治するためには、現在の金正恩政権を転覆しなければならないが、それはどうやって遂行するのかということ。もう一つが、金正恩政権が崩壊したと仮定して、米中ロの信託統治の体制で、いったい誰が北朝鮮のトップに就くのかということだ。

残念ながら、この二つの質問に対するアメリカ側の回答は、はっきりしていない。だから推測するしかないが、いまにして思えば、トランプ政権のプランには、金正男を「ポスト金正恩」として擁立するというオプションが、俎上に上っていた可能性が高い。

金正恩委員長はその情報を得たからこそ、躍起になって金正男暗殺を厳命したのではないか。