世紀のゲノム編集技術「クリスパー」、その特許紛争の気になる結果

なぜオリジナルの考案者が敗れたのか
小林 雅一 プロフィール

生物全般をカバーする特許なのか

仮にダウドナ陣営に与えられる特許が、「単なるバクテリアのDNA」を書き換える技術に関するものだとすれば、その特許にはほとんど何の意味もない。(繰り返すが)バクテリアのDNAを書き換えたところで、産業的には何の役にも立たないからだ。

もしも、この結果に終われば、ダウドナ陣営にとっては致命的な敗北であり、ジャン陣営にとっては「勝者総取り」のような恰好になる。

逆に(ダウドナ陣営が主張してきたように)単なるバクテリアではなく、より一般的な、つまり(バクテリアは便宜上の目的に過ぎず)あらゆる生物のDNAをゲノム編集するためのベースとなる技術に対して特許が与えられるとすれば、それはダウドナ陣営にとって許容範囲内であろう。

もちろんジャン陣営に与えられたクリスパー特許も有効のままだが、彼らの特許は「ダウドナ陣営の技術(特許)をベースに開発された技術(特許)」という位置づけになる。

しかし、この場合、今後、クリスパー技術を使って画期的な新製品(新薬や遺伝子組み換え作物など)を開発しようとする大手製薬会社やバイオ・メーカー、各種ベンチャー企業などにとって、金銭的な負担が倍化してしまう。なぜならダウドナ陣営(カリフォルニア大学バークレイ校)とジャン陣営(ブロード研究所)が各々持っている特許に対して、特許使用料を個別に支払わねばならないからだ。

一方、ダウドナ陣営とジャン陣営では、おそらくクロス・ライセンス契約を結ぶことによって、お互いに特許使用料を払う必要はなくなるだろう。

 

今後の展開は?

米国の知財専門家の間では、今後、ダウドナ陣営に与えられる特許は「単なるバクテリアのDNAをゲノム編集する技術に対する特許」との見方が若干優勢だ。しかしもちろん、まだ決着がついたわけではない。

と言うのも、かつてジャン氏らの研究チームに所属していた留学生からの内部告発(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49531)などから判断する限り、実際にはジャン博士らが開発したクリスパー技術は、ダウドナ/シャルパンティエ博士らの共同チームが2012年に発表した科学論文に基づいている公算が高いからだ。

となると、ダウドナ陣営の期待通り、(単なるバクテリアに限定されず)「あらゆる生物のDNAを書き換えるためのベース技術」という位置付けのクリスパー特許が、彼女たちのチームに与えられる可能性も十分残されている。

最後に残された3つめの可能性は、ダウドナ陣営が当初の強気を貫いて、今後、連邦控訴裁に控訴することだ。

仮に、ここで逆転勝訴すれば、ダウドナ陣営とジャン陣営のクリスパー技術は実質的に同じ技術とみなされる。結果、先にこの技術を開発し、特許申請もしたダウドナ陣営にクリスパーの基本特許が与えられ、ジャン陣営は全てを失う。

しかしダウドナ陣営が控訴する可能性は高いが、そこで逆転勝訴する可能性は低いと見られている。

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