アパホテルから12億円を騙し取った「地面師」驚きの手口

カネはどこに消えたのか?
伊藤 博敏 プロフィール

赤坂案件では現地調査は仲介業者が行い、建築設計事務所がホテル建設用地としての可否を検討。登記実務は経験豊富な司法書士に委ねられ、社内で検討の末、購入が決定する。

価格は12億6000万円で契約締結日と決済日は、13年8月6日に決まった。

同日午前12時、メガバンクの赤坂見附支店に一堂が会した。大正15年生まれのSS氏(当時87歳)と昭和4年生まれのSK氏(同84歳)、ダイリツ代表の宮田容疑者、K社代表、APAから受任を受けた司法書士。他に、双方から弁護士、司法書士などが立ち会い、売買契約が成立し、APAからK社への支払いがなされ、法務局に登記が申請された。

 

このSSとSKの両氏が、宮田容疑者から依頼を受けた「成りすまし犯」だった。APAサイドは本人確認を住民基本台帳カードで行うが、実は、これが偽造されたものだったのだ。不動産権利書、固定資産評価証明書、印鑑証明書など契約に必要な書類もすべて偽造だった。

契約が成立し、振込が完了した時、数十万円から数百万円で雇われるという成りすまし犯の2人はホッと胸をなで下ろす。宮田容疑者ら地面師グループ(どこまで仲間かは現段階では不明)は、小躍りして喜んだに違いない。

地面師が跋扈する理由

犯行が露見したのは、売買から6日後である。

契約の主だった参加者は、東京法務局港出張所に呼ばれ、「印鑑証明書など登記の申請書類は偽造」と告げられた。その時には、麻布署の捜査員が待機、私文書偽造・同行使の疑いがあるとして、事情聴取を行っている。

だが、「成りすまし犯」の2人は既に行方知れずで、宮田容疑者は取引直後、海外に“脱出”し、連絡が取れなくなっていた。

この頃の宮田容疑者グループは、実に精力的だ。APA事件の3ヵ月前には、医療法人が品川区の一等地に所有する145坪に目を付け、港区の不動産会社A社に、「所有者が土地売却を急いでいる。知人の不動産会社アトミックを通じて買わないか」と、持ちかけた。この時もダイリツは中間登記省略で、所有権は医療法人→アトミック→P社と、移転することになった。

売買代金は3億6000万円で、13年4月5日、所有権移転手続きが行われた。宮田容疑者、アトミック、P社の代表などの契約当事者の前に現れ、医療法人理事長として署名捺印したのは55歳の「成りすまし犯」で、司法書士らが行った本人確認は、運転免許証で行なわれた。アトミックの松元哲代表は、冒頭の80歳代の夫人の土地売買代金を詐取した疑いで、2月13日、宮田容疑者とともに逮捕されている。

この他にも宮田容疑者は、茨城県日立市の不動産を都内の不動産業者に同じような手口で売却、約7億円を詐取したと報じられている。

逮捕案件の7000万円が最も被害金額が少なく、APAの赤坂の土地、医療法人の品川の土地、日立市の土地を合わせると4件約25億円になる。そのカネはどこに消え、グループは何人なのか。

被害者は、詐取されたカネが返ってくるわけでもないと情報開示に消極的で、大手メディアは「古めかしく、ありふれた事件」として大きくは取り扱わない。だが、高齢化の進展に伴う空家の急増などで狙われる土地が増え、地面師の跋扈が続く。

知名度が高いうえ、こうした犯罪への対抗策を備えているAPAがだまされたことを報じることで、警視庁管内だけで60件近いとされる未解決地面師事件への警告にしたかったが、APAは「捜査中」を理由に取材に応じることはなかった。